日本の農家は保護されすぎていない

日本の農家は保護されすぎていない

国会(第213回通常国会)の会期が迫っていますが、今国会では「農業の憲法」とも呼ばれている『食料・農業・農村基本法』(以下、農業基本法)が改定されました。

6月5日に公布・施行されたこの法律には「食料安全保障の確保」が謳われているものの、中身をよくみますと全く辻褄が合っていません。

なぜなら、この法律を根拠にして進めようとしている農水省の諸政策には財政的な裏付けが全くないのです。

例えば農水省は「農家の収益性を向上させるために農産物の輸出を促進する…」と言いますが、食料分野においては各国が自国の農家を関税や補助金等で守っていますので、我が国の政府もまた同様の措置を採らない限り輸出市場で日本の農家が優位性を発揮することなどできません。

一例としておコメの価格をみても、その内外価格差は実に大きい。

国産米の価格は精米ベースで1キロあたり245円程度ですが、米国産の同現地価格は90円程度です。

これでどうやって「輸出に打って出ろ…」と言うのか。

それでも輸出させたいのであれば、例えば米国のようにその価格差を日本政府が補助するか、もしくはヨーロッパのように農家の所得を日本政府が補償するかの財政措置を採らなければならない。

むろん、日本政府にそんな気はさらさらない。

要するに、改定された農業基本法はまさに絵に描いた餅なのでございます。

因みに世間では「日本の農家は保護されすぎている…」などと言われていますが、これは何かの誤解かと思われます。

農業所得に占める政府補助の割合を国際比較すると概ね次のようになります。

日 本  30%
米 国  35%
スイス 105%
仏 国  95%
独 国  70%
英 国  91%

また、農業生産額に対する政府の農業予算比率は概ね次の通り。

日 本  38%
米 国  75%
スイス   ー
仏 国  44%
独 国  61%
英 国  63%

言うまでもなく、食料は国民の命を守る安全保障の要です。

にもかかわらず、上記のとおり我が国の政府はそのための予算を充分に確保していません。

とりわけ、メディア等が垂れ流している「日本は過保護で衰退、欧米は競争で発展…」というレトリックが嘘であることは明白なのに、残念ながら多くの国民が「農業は過保護にされすぎている」と刷り込まれ、農業政策の議論をしようとすると「農業保護はやめろ…」という議論に矮小化され批判され続けてきたのでございます。

なお、TPPが典型ですが、我が国では自動車などの輸出を伸ばすために農業を犠牲にしてきたと言っても過言ではありません。

近年、その農業犠牲の構図はさらに強まっています。

官邸での各省庁のパワー・バランスは完全に崩れ、即ち農水省の力が削がれ、経産省が官邸を掌握しているとさえ言われています。

要するに、官邸を仕切る経産省が所管する自動車(天下り先)の輸出を強化するため農業が犠牲にされているというわけです。

さて、一般的に日本の食料自給率は38%と言われていますが、種や肥料などの自給率の低さをも考慮すると38%どころの騒ぎではありません。

わずか10%あるかないかです。

それが現実です。

ゆえに、もしも海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が出る国とも言われています。

いま我が国には、食料の国内生産能力の増強こそが求められています。

しかしながら、改定された農業基本法ではそれを実現することはできない。