財政を健全化したければ財政赤字を拡大せよ

財政を健全化したければ財政赤字を拡大せよ

きのう、「骨太の方針2024」の原案が示されました。

骨太の方針は、2021年、2022年、2023年の三年間にわたって「PB黒字化目標」という言葉は使われず、代わりに「これまでの財政健全化目標に取り組む」と記載されてきました。

久しぶりに「2025年度の国・地方をあわせたPB黒字化を目指す」という文言が明記され、いわゆる健全化目標が改めて示されたわけです。

一方、原案には「(財政健全化の)目標により、(政策の)選択肢がゆがめられてはならない」という文言があります。

これは前年をほぼ踏襲したものですが、むろん積極財政派への配慮かと思われます。

さて、ことしの骨太の方針の特徴は、財政健全化の必要性を「金利ある世界の利払費増加懸念などに備えるため…」としている点ではないでしょうか。

つまり「これからは金利が上がるのだから、政府の利払費が財政を圧迫する。だから健全財政(緊縮財政)が必要なのだ…」と。

それでいて、「健全財政と経済成長の両立をはかる…」とも言っています。

デフレが払拭されていない状況下で、どうやって健全財政と経済成長を両立させることができるのか、まったく理解に苦しみます。

いずれにしても財務省は、どんなに財政赤字を拡大しても、どんなに政府債務が膨らんでも、日本政府には一向に破綻(デフォルト)の懸念がないことから、今度は「利払費の増加」を脅し文句に使っているのでしょう。

財務省としてはやはり、「国債償還費+利払費」を除いた歳出、すなわち政策的経費と税収とをバランスさせる“PB(基礎的財政収支)”ではなく、できれば「利払費+政策経費」と税収とをバランスさせる“財政収支”の方を健全化目標にしたかったことが伺えます。

そもそも、日米の間でこれだけ金利格差が生じているのは、バイデン政権誕生以降、米国は積極的に財政支出を拡大したのに対し、我が国は徹底して緊縮財政を堅持してしまったからです。

植田日銀がなかなか思い切った利上げに踏み切れないのも、日本経済がデフレ(及びコストプッシュ・インフレ)の中にあることを理解しているからです。

それでいて財務省は、「これだけ金利差があったらまずいだろ。だから今後は利上げの方向にあって政府の利払費が増える。だから緊縮財政が必要なんだ…」という狡猾なレトリックを使っています。

とはいえ、政府は毎年9兆円程度の利払費を予算計上していますが決算額は概ね7兆円程度に留まっていますし、しかも金利と利払費の推移をみると完全に反比例しています。

まず何より、財務省をはじめ緊縮財政派の政治家やメディア、そして国民は次の事実を認識すべきです。

①財政赤字は高インフレを招くとは限らない

②主権国家の政府は自らの債務で破綻しない

③国債の利子率は中央銀行が操作できる政策変数である

1998年以来の長いデフレ経済のなか、それこそ巨額の財政赤字と債務を有してきた日本政府が一度たりとも破綻(デフォルト)したことがない現実こそが、それら①②が事実であることを証明しています。

そして③についても、これまで(今でもそうですが…)日本銀行はECC(イールド・カーブ・コントロール)により国債金利をほぼ完璧に操作してきました。

どうしても利上げしたいのであれば、財政赤字を拡大してデフレとコストプッシュ・インフレを払拭する以外にない。

残念ながら、PBを黒字化させようとすればするほど経済は成長できず、将来的に財政健全化を果たすこともできないのです。

要するに現在の我が国は、財政赤字を拡大しなければ健全財政を目指せない状況にあるのでございます。

これを世間の皆様に理解してもらうことの難しさを痛感しております。