「地方分権」再考

「地方分権」再考

日本維新の会の綱領には、地方政府の権限強化を進める具体的方策として「道州制の導入」が謳われています。

私は道州制の導入に反対する者のひとりですが、まず「道州制」が地方分権とは異なる概念であることを理解しなければならない。

地方分権は、中央政府が有している財源と権限の一部を地方政府に移譲することで、行政運営にあたる地方政府が地域の実状に応じて施策展開できるようにするというものです。

一方、道州制は、いわば日本の国内にシンガポールのような国をいくつかつくろう、というもの。

すなわち、主権の分割という形での日本解体なのです。

なお、地方分権を推進する者たちも同様に理解していないことですが、現在の日本の地方政府の権限は意外にも大きい。

例えば、日本の地方政府の支出総額は極めて大きく、先進産業国では連邦制を採用している国における州と地方の支出に匹敵しています。

全政府歳入に占める、厳格な意味での地方政府の自主財源による歳入の割合についても、先進諸国の中でも高いほうに属します。

地方政府の歳出に至っては、それが全政府歳出の7割ちかくを占めており、これまた先進諸国の中でも異例の高さです。

これらの事実は、日本の地方自治体が他国のそれに比べても多くの行政活動を分担していることを示しているわけです。

そもそも国全体の3割しか税金を徴収していない地方政府が、国の支出全体の7割を占めているのですから、現在においてもなお財源は移譲されているといえます。

因みに、天皇陛下は知事の招請がなければ都道府県を正式訪問することができない。

国家的課題の解決のためには、大きな権限を有する道州はむしろ大きな阻害要因です。

前述のとおり地方政府の権限強化を掲げている日本維新の会ですが、要するに前提となっている事実関係が嘘で捻じ曲げられているわけです。

例えば日本維新の会が主張する「日本は公務員が多いから減らせ…」というのもそうでしょう。

OECD統計からも明らかになっていますが、日本の労働者人口に占める公務員数は地方公務員や天下り官僚を含めても世界では極めて少ない。

その比率は米国の3分の1で、あのサッチャー改革で公務員を減らしまくった英国の半分です。

むしろ公務員を少なくし過ぎて、拡大する行政ニーズに対応できない地方自治体が増えています。

因みに、新型コロナウイルス感染症による人口100万人あたりの死者数は、大阪市がトップでした。

実数でみても、大阪府のそれは東京都を上回っていました。

大阪府の人口は882万人であるのに対し東京都の人口は1396万人ですので、どれだけ多かったのかがわかります。

なぜそのようになったのか?

それまでに維新がしてきたことを検証すれば歴然です。

例えば維新は赤字の公的医療機関を廃止し、黒字の公的医療機関は民営化しました。

あるいは府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所を「二重行政はダメぇ〜」とか言って統合縮小し、とりわけ感染症予防の研究や対策を担当する部署をリストラしたのです。

あまつさえ、公立病院の医師や看護師8,785人(2007年)を4,360人(2019年)にまで削減しました。

そしてこれが決定的だったと思いますが、なんと保健所など衛生行政の職員数を12,232人(2007年)から9,278人(2019年)に削減したのです。

2020年末のデータによれば、人口10万人あたりの保健師数は、大阪府は27.7人(全国平均44.1人)でした。

因みにワースト1は、恥ずかしながら神奈川県(26.9人)なのですが、大阪府ほど悲惨な状況にはなっていません。

それは、保健師数こそ少なかったものの、保健所職員数が大阪府の5倍もいたからです。

こうした愚策を繰り返す自治体が現れても、地方分権が進み過ぎて中央政府にはこれを諌める権限がありません。

そういえば、日本維新の会の共同代表の吉村大阪府知事が「0歳児から選挙権を与えろ」と主張して世間からの失笑を受けていますが、もう少し真面目に物事を考えたほうがいい。