半導体と安全保障

半導体と安全保障

今の私たちはトランジスタに囲まれて生きています。

例えば一日の暮らしのなかで、私たちの視界にトランジスタが入らないことはまずありません。

パソコン、テレビ、スマホ、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、加湿器、除湿機、時計、自動車、バイク、信号機、飛行機、新幹線、あらゆるものに半導体が使われています。

米国のバイデン大統領は、2021年の段階で次のように述べています。

「この半導体(チップ)は郵便切手より小さいが、80億以上ものトランジスタを内蔵している。この1チップに、人間の髪の毛の一万分の一よりも細いトランジスタが80億個も入っているのだ。半導体チップは我々の国に力を与える革新と設計の脅威であり、自動車だけでなく、スマホ、テレビ、ラジオ、医療診断機器など、現代ではあたりまえの生活を続けることを可能にしている」

ここでバイデン大統領が言っているチップとは、おそらくフラッシュメモリーのことかと思われますが、例えば今や仕事や生活に欠せないスマホには40億個のトランジスタが物理的に搭載されています。

とにもかくにも我々の周囲を取り囲む「電気を使う製品」には、100%ちかく半導体が使われており、もはや、半導体を使っていない電気製品を見つけだす方が困難です。

むろん、生活必需品だけでなく、兵器にも使われています。

ゆえに半導体は紛れもなく「戦略物資」です。

さて、問題は、これらの半導体を誰が作っているかです。

2022年の「電子集積回路・半導体類の輸出額」をみますと、ダントツで台湾がトップとなっており、次いで中国、マレーシアが並び、4位にフィリピンが続きます。

マレーシアが3位、フィリピンが4位に入っているのは、おそらく半導体製造の「後工程」を担っているからでしょう。

半導体の面白いところは、半導体そのものを設計から後工程まで、すべての工程を1社で、あるいは一国で完結している国などないことです。

中国はそれをやろうと試みていますが、なかなかに難しい。

米国でさえ、一国だけで半導体の製造を完結することは不可能です。

半導体は、素材、設計、前工程、後工程など世界的に分業されていて、例えば、オランダにASMLという会社がありますが、この会社が製造する露光装置はすべての半導体に使われています。

もしもASMLが露光装置を供給できなくなると、世界中の半導体の生産が滞ります。

ご承知のとおり我が国は、シリコンウェーハなどの素材や製造装置の分野で強い競争力を有しています。

つまり半導体は、極めて複雑かつ脆弱なバリューチェーンによって製造されているのでございます。

そのバリューチェーンを主導しているのは、むろん米国ですが、中国はそこからはじき出されているわけです。

2022年10月以降、米国は中国に対して半導体製造に関する輸出規制を行っており、そのことで中国は半導体の確保に苦しんでいます。

要するに米国は、米国が主導する半導体バリューチェーンから中国を締め出すことで、自国の防衛安全保障の強化を図っています。

TSMCの工場が熊本にできるのも、ラピダスが北海道に進出するのもその流れの話で、これらの事業に対して緊縮財政の日本政府が莫大な予算をつけているのは、おそらくは米国様からの指示があったからだと思われます。