3月18日と19日に開かれた金融政策決定会合で日銀はマイナス金利の解除等を決めました。
これをもってメディアらは「金融政策の大転換」だの、「大規模金融緩和政策の転換」だのと報道していますが、果たしてどうか。
なかには、「金融引き締め」などという言葉まで使う人たちもいますが、さすがにこれには違和感を覚えます。
例えば短期金利については、マイナス(▲0.1〜0%)だった政策金利をゼロ(0〜0.1%)に戻す、厳密に言うと0〜0.1%程度で推移するように促すとのことですが、これを「金融引き締め…」と言えるかどうか。
実は、政策金利をマイナスにしたときも、短期の最優遇貸出金利(プライムレート)は一貫して1.4%強で推移し、今なお全く変動していません。
ゆえに、マイナス金利をゼロ金利にしたところで、おそらく短期プライムレート(以下、短プラ)にはまったく影響しないものと推察されます。
ご承知のとおり、住宅ローンの変動金利は短プラに連動して決めらていますが、短プラが変動しなければ私たちの経済生活にはほぼ影響しません。
あるいは、確かにETFやJ-REITの新規買入れを止め、長期金利についてはYCC(イールド・カーブ・コントロール)を終了するらしいのですが、今後も引き続き、長期金利が急激に上昇する場合には機動的に買入れ額の増額等で対応する、つまり「これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入を継続する」と日銀はアナウンスしています。
これらのことを総合して勘案しますと、「金融引き締め」というよりも「金融緩和の緩和」といったほうが正確ではないでしょうか。
現に、先日の『月例経済報告』でも日銀は、「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と表明しています。
ではなぜ今、日銀は金融緩和を緩和したのでしょうか。
その最大のきっかけは、今年の春闘です。
各企業等の労働組合は、毎年春になると賃金引き上げ等の要求を各企業に提出し、団体交渉を行っています。
これを一般に「春闘」と呼んでいますが、3月15日に連合が発表した回答集計(1回目)によりますと、平均賃上げ率は5.28%になりました。
要求平均の5.85%までには届かなかったものの、賃上げ率は昨年の3.6%を大きく上回ったわけです。
これをもって日銀は「賃上げ = デフレ脱却の方向」と解釈しているようです。
しかしながら、どうみてもこれはおかしい。
昨年の春闘でも3.6%の賃上げが行われましたが、実質賃金は上昇するどころか下がり続けています。(22ヶ月連続の下落中)
それに、内閣府ができるだけギャップを小さく見せるように計算している「デフレ・ギャップ(GDPギャップ)」でさえ、2023年第3四半期(7〜9月)はマイナス0.5、第4四半期(10〜12月)がマイナス0.6となっており、2期連続のマイナスギャップが続いています。
春闘で賃上げが行われたものの、まったくデフレは払拭されていないのでございます。
そもそも労働組合に加入している就業者数は16%しかおらず、残りの84%の就業者にとって春闘は関係ありません。
しかも、この世の就業者の7割は中小企業で働いておりますので、例え大企業で働く就業者の賃金が上昇しても、それが国内消費の拡大に直結するとは考えにくい。
もしも金融緩和を緩和するのであれば、それは実質賃金が安定的に上昇する局面であるべきだと考えます。
今回の日銀の判断は実に不可解です。