平成16年6月に公布された『公益通報保護者法』は、労働者や退職者、役員が勤務先の企業、行政機関の不正や違法行為を組織内の監査機関のほか、外部の公的機関や報道機関、消費者団体などに通報することを認め、その通報を理由とした通報者らへの不利益な取り扱いを禁じています。
川崎市では、上下水道局内の打ち合わせにおいて、市長の名誉を貶めるような事実に基づかぬ発言をした職員がいました。
また、その発言の真偽を確認することもなくメモ(公文書化)した職員がいました。
そのため、事実に基づかぬ公文書がファイルとして保管されることになってしまい、その後、そのファイル(公文書)を発見した職員が「行政に不正の疑いあり…」(実際にはなかった)という情報を本市の市議会議員に提供したらしい。
その情報を入手した市議会議員は市議会で「行政に不正の疑いあり…」として上下水道局を追及したわけですが、前述のとおり、その内容は事実に基づかぬものであったため、行政(市長)への疑いはすぐに晴れました。
疑いは晴れはしたものの、議会という平場で「不正の疑いあり…」としてやられてしまえば、当然のことながらメディアもそれを取り上げニュースにしますので、市長にとっては実に不名誉なことであったと拝察します。
ちなみに、もしも議員が議会で追及するのであれば、まずは職員から得た情報の裏取りをすべきで、生煮えの情報のままいきなり議会で追及すべきではない。
それは議会人としてのマナーだと私は思っています。
さて、以上申し上げた一連の流れのなかで、もっとも悪質なのは、役所の会議という公の場で市長の名誉を貶めるような事実に基づかぬ発言をした職員であり、それを事実関係の確認もせずに公文書化した職員だと思います。
ところが、上下水道局のお裁きは実にお粗末なものだったと言わざるを得ません。
まず、事実に基づかぬ発言をした職員と、それを公文書化した職員については「文書注意」、一方、「行政の不正の疑いを示す」公文書を市民の代表である市議会議員に提供した職員については停職1ヶ月の「懲戒処分」としました。
なお、懲戒処分とされた職員については、これまで、議員の議会での質問文を個人的に作成したり、内部資料などの情報を上司の許可を得ず数回提供したりしたこと、また、公用のパソコンで通販サイトのアドレスを私用のメールに数回送信したことなど、それらも合わせもって懲戒処分としています。
しかし、懲戒処分を受けた職員のこれらの行いは、市民(日本国民たる川崎市民)に不利益をもたらさないかぎりにおいて、本来であれば文書訓戒程度のものです。
昨日の予算審査特別委員会において総務企画局長に確認したところ、「文書訓戒に該当する処分を複数組み合わせて懲戒処分を行った事例は確認できる範囲ではございません」と答弁されていますので、今回の上下水道局の下した処分は極めて異例です。
そもそも上下水道局は、懲戒処分を受けた職員の議員への情報提供は「公益通報には当たらない」としています。
その理由は、「文書には事実と異なる内容が記されており、真実相当性の要件に該当しないから…」だという。
しかしながら、「事実と異なる内容であったこと」が確認されたのは、職員が通報を行った後のことです。
通報した時点では、事実無痕であることは確認されておらず、少なくとも疑いはありました。
(今回の場合、確認するのは、情報を受け取った議員の役目だと思います)
例えば、児童虐待の通報では、虐待の疑いを発見した者が警察や児相に通報し、仮に虐待の事実がなかった場合であっても、通報者が法的責任を問われることはないとされています。
もしも法的責任が問われることになれば、通報してくれる人がいなくなってしまうからです。
よって、上下水道局が、今回のケースで「公益通報に当たらない」としたことには、大いに疑問を持ちます。
上下水道局のトップである上下水道事業管理者は、「これらの判断や処分は、顧問弁護士に相談したうえでのことだ」としていますが、まともな弁護士がそのようなアドバイスをしたとは到底考えられません。
顧問弁護士とのやり取りもまた「公文書」ですので、私は昨日の予算審査特別委員会で上下水道事業管理者にその提出を求めたのですが、法的根拠もなく不開示とされました。
法的根拠もなく不開示…
公文書は行政の私物ではなく、市民(日本国民たる川崎市民)のものです。
市民に具体的な不利益が生じないかぎりにおいて、原則公開なはずです。
今回の上下水道局の処分は、川崎市の職員に対して「行政の不都合を漏らすとこうなるぞ…」という見せしめなのか。