私はこれまで川崎市議会においても「食料安全保障」の重要性を訴えてきましたが、そのことに関心をお寄せくださる市民は必ずしも多くはありませんでした。
しかしながら、さすがにロシア・ウクライナ戦争以降は、日本の食料安全保障が危機の中にあるという認識が徐々に広まりつつあるように思います。
さて、今国会において、農政の基本理念や政策の方向性を示す『食料・農業・農村基本法』の改正案が提出される予定です。
法律改正の目的は、一応は食料安全保障の強化となっています。
とはいえ、法案の中身をみると具体策がまるでない。
あると言えばあるのですが、例えば、実際に日本が食糧危機に陥った際、政府が農家に対して作物の種類変更や増産などの命令を出させるようにし、それに逆らった場合には20万円の罰金を課すというのですが、そんなことが本当にできるのでしょうか。
できたとして、食料自給率の引き上げには直接的に繋がらないものと思われます。
法案全体を通して、わが国の低い食料自給率を引き上げるための政策がほぼ皆無なのが誠に残念です。
ただ一つだけ、論理的には可能かもしれない…と思わせるものがありました。
それは何かというと「輸出の強化」です。
すなわち「農業の輸出を増やすことで食料安全保障を強化する」というわけですが、これならまだロジックとしては成立するかもしれません。
成立はしますが、問題は具体的に何を輸出するのかです。
例えば、トマトやキュウリやリンゴの輸出量を増やしても、さすがにそれでは食料安全保障の強化につながるとは考え難い。
食料安全保障につながる輸出作物となると、それは唯ひとつ「穀物」という戦略物資しかありえません。
当然のことながら我が国の場合、おコメです。
つまり、おコメの輸出量を増やし、食糧危機の際には輸出を止めて国内で消費する。
これならロジックとしては成立するのですが、それでも実際には難しい。
なぜなら、グローバルな穀物価格が低迷し続けているからです。
現在のグローバル価格(タイの精米の価格)は、1トン500ドルというトンデモナイほどの安値です。
一方、日本のおコメの価格は現在、一俵で概ね12,000円です。
これをトンに換算すると、平均的に1トン1,600ドルを超えます。
要するに、グローバル価格の3倍以上もするわけで、これほどの価格差ではグローバル市場で売ることなどできません。
輸出しても儲からなければ農家は生産量を増やしなどはしないでしょう。
それでも生産させるなら、政府が農家に対し100%の所得補償を行い、作ったものを外国に叩き売る。
もしくは米国のように、農家の生産価格とグローバル価格の差を政府が財政支出で埋めるほかはないでしょう。
ただ、価格面で太刀打ちできたとして、そうなると今度は米国様から政治的圧力がかかるはずです。
おコメの市場が拡大すれば、必ず小麦市場にも影響が及びます。
米国様の穀物市場を荒らせば、それなりの政治圧がかかるのは必定です。
ということで、日本政府が財政支出を拡大する覚悟、それと米国様と喧嘩する覚悟、二つの覚悟を持たない限り、おコメの輸出拡大で食料安全保障を強化することは現実的には困難かと思われます。