世の中には偽情報が蔓延っています。
昨今では、SNSなどで真偽不確かな怪しい情報、いわゆるFake情報が広がることが多くなっています。
元旦に発生した能登半島地震についても、Fake情報が広がりました。
震度7の地震発生直後から、旧ツイッターのXにおいて「東日本大震災の津波の映像」を今回の地震によるものだとする偽情報が拡散されました。
地震の混乱に乗じて外国人の窃盗団が集結しているという偽情報、あるいは偽の住所で救助要請をするなど極めて悪質なFake情報もありました。
当然のことながら、こうしたFake情報が広がってしまうと、救助や支援の活動に深刻な影響を与えてしまいます。
災害ほど、人々が不安を感じたり、情報を強く欲したりする緊急事態はないので、どうしても人々はFake情報に引っかかりやすいわけですが、それに便乗して注目を集め、閲覧数を稼いでカネを儲けようとする悪辣な人間がいるのは誠に残念なことです。
また、偽情報は例え以前に広がったものであっても、再び広がるから厄介です。
こうしたFake情報に騙されないためには、我々一人ひとりが出処の明らかでない情報には必ず疑いを持つことが大切です。
実は、私たちが知る日本の歴史にもFake(嘘)が多いのをご存知でしょうか。
その一つが、幕末の英雄!? 坂本龍馬です。
司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で坂本龍馬ファンになった方々にはもうしわけないのですが、あの小説で描かれた坂本龍馬は「竜馬」であって「龍馬」ではありません。
これは、著者である司馬遼太郎さん御本人が言っておられたことで、歴史上の人物としてのリョウマと、空想上のリョウマを分けるために漢字を「龍馬」ではなく「竜馬」にしたと司馬さんは述べておられます。
司馬さんが空想した竜馬とは、にらみ合う薩摩と長州の仲をとりもつために奔走し、両者が対面する機会をセッティングし、両藩が協力し合うことの必要性を説き伏せて薩長同盟を具現化した人。
あるいは、海軍兼貿易商社であり、後の帝国海軍の原型であり、日本初の株式会社である「亀山社中」を創設した先見の明のある人。
あるいは、長崎から神戸に向かう船のなかで、その後の「五箇条の御誓文」の原型となる「船中八策」を構想した偉大な人。
まあ、こんなイメージでしょうか。
しかしながら、これらはあくまでも司馬遼太郎さんが空想した竜馬であって、歴史上の人物としての坂本龍馬ではありません。
薩長同盟を実質的に具現化した最大の功労者は薩摩藩の小松帯刀であって坂本龍馬ではありません。
亀山社中については、そもそも株式会社ではないし、実際に社中を中心的に運営していたのは近藤長次郎という土佐藩の脱藩浪人です。
しかも社中が運用していた船もその積荷も薩摩藩所有のもので、彼らはいわば土佐藩の非正規職員として船で荷物を運んでいただけ。
亀山という冠がついたのも、明治に入ってからのことです。
船中八策についても、その中身は龍馬オリジナルの構想ではありませんし、そもそも「船中八策」は原本どころか、その写しすら未だに一枚も発見されていません。
おそらくは、明治以降の創作かと思われます。
むろん、司馬遼太郎さんに罪があるわけではありません。
私たち国民一人ひとりが、小説と歴史を混同してはならない、ということです。
決して夢を壊せと言っているのではありません。
できうるかぎり真実に肉薄しなければ、歴史を教訓にすることはできないと思うだけです。