ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルによるガザ地区への攻撃など、第三次世界大戦のはじまりを感じさせる地政学的危機が発生しているなか、現在の国際政治を冷静に俯瞰してみますと、これまで世界の警察官として君臨してきた覇権国・米国は、ロシア、中国、イランというリビジョニスト国家と対峙しており、むろん、そのことは当事国である米国の国際戦略上の大前提となっているはずです。
とりわけ、中国の動向は、米国の政策立案者たちにとって最大の関心事なのでしょう。
中国もまた、陰りをみせはじめた国内経済を下支えしながらも、露宇戦争、パレスチナ紛争に注視しつつ、その国力を対外的に誇示し、着々と台湾侵攻の機会を伺っているものと推察します。
この10年間にわたって米国は、西太平洋における中国の覇権確立を阻止し、日韓豪との同盟関係の強化維持に力を注いできましたが、一方の中国も、西太平洋における米国の影響力を低下させ、最終的には排除することに専念してきました。
もう一つの大国・ロシアは、経済的にも人口動態的にも中国に劣りますが、依然として主要な核保有国です。
既に露宇戦争は、ロシアにとって優勢な長期的消耗戦に入りつつあるようです。
中国が米国を西太平洋から排除したいと考えているのと同じように、ロシアもまた米国をヨーロッパから追い出すことを追求しています。
むろんそのことは、旧ソ連時代からの長期的な戦略目標でもありました。
もう一つのリビジョニスト国家・イランもまた、核保有によりイスラエルと対峙できる国を目指しており、近い将来それは具現化されるものと思われます。
そうしたなか、米国のバイデン政権は極めて近視眼的な視点で、これらリビジョニスト国家からの挑戦に向き合っているような気がします。
少なくとも2000年以降の米国の世界戦略は、経済的にも軍事的にもともに失敗したと言わざるを得ません。
NATOの東方拡大はロシアに不要な刺激を与え、ついには露宇戦争を発生するに至り、中国をWTOに加盟させたことは、中国を経済的にも軍事的にも肥え太らせ、東アジアの地政学リスクを高め、相対的に米国の国際影響力を低下させてしまいました。
なによりも中東への関心の薄さは致命的だったと思います。
パレスチナ問題のみならず、レバノンでの絶え間ない政権危機、リビアの政情不安等々、中東地域が抱えてきた様々な問題に対し、覇権国として何をしてきたのでしょうか。
ご承知のとおり、2000年以降の米国は理想主義的なリベラル外交戦略を採ってきました。
すなわち、米国は、すべての外交政策を民主主義の促進という空虚な視点で捉え過ぎてしまった結果、かえって「非民主主義国家」や「権威主義国家」について無関心になってしまったのではないでしょうか。
例えば、中東と北アフリカの地域には、民主主義国家はほとんど存在しません。
2年前、バイデン政権は「民主主義サミット」を主催しましたが、中東と北アフリカ地域からは20カ国のうちイスラエルとイラクの二カ国しか招待されず、当該地域のほぼすべての国が除外されてしまったわけです。
民主主義国としか対話しない姿勢を取り続けてきたのですから、米国が「孤独な覇権国」にならざるを得ないのも当然です。
こうした中東に対する米国、とりわけバイデン政権の無関心な態度が、パレスチナ情勢を悪戯に悪化させているとも言えないか。
イスラエルとハマスとの紛争が今後どのように推移するのかはわかりませんが、イランがロシアと中国の強力な同盟国として行動することは間違いないでしょう。
今でもイランはロシアへの武器供給国です。
孤独な覇権国・米国の国際戦略の失敗は、その同盟国(属国!?)である日本の安全保障環境や国際的立場を危うくさせることは言うまでもありません。
なにより、覇権国の退潮が国際秩序を不安定化させるのは必至です。