国債と財源への理解不足

国債と財源への理解不足

これまで岸田総理は、「税収上振れ分を財源に、減税で国民に還元する…」としてきました。

ところがきのう(11月8日)、衆議院財務金融委員会において鈴木財務大臣は「過去の税収増分は既に使用済みで、政策的経費や国債の償還に既に充てられてきた」と述べ、岸田総理の面目を失墜させる答弁をされました。

要するに、「還元するための原資など無い…」と。

なお、鈴木財務大臣は、来年6月からの実施を目指している所得税と住民税の減税により「減税しなかった場合と比べて借金である国債の発行額が増える…」とも言っています。

それを、今朝のラジオ番組でキャスターの森本毅郎氏が「減税されても、その財源は将来のツケじゃねえか…」と批判をしていました。

この一連の話を聞いて、思わず嘲笑してしまったのは私だけでしょうか。

結局、①税収上振れ分を減税で還元するとした岸田総理、②国債の償還に充ててきたとする鈴木財務相、③国債は将来のツケだとした森本毅郎氏、①②③それぞれにお門違いをしています。

岸田、鈴木、森本、いずれも税収が財源だと思い込んでいる点でアウトなのですが、岸田総理は「財源に余裕があったから国民に返すよ…」と言いたかったのでしょうし、鈴木財務相は「余った財源で国債を償還しておきました」と言いたかったのでしょうし、森本毅郎氏は「国債は国民が必ず返さねばならぬもの」と思い込んでいるのだと思います。

まず、税収が上振れたということが何を意味しているのか、それを岸田総理は正しく理解されておられない。

税収増とは、当初予算で見込んでいた税収よりも増えたわけですから、その分、民間部門から政府が貨幣を回収(消滅)してしまったことを意味しています。

政府による貨幣回収は、むろんデフレ圧力です。

日本経済には未だデフレギャップがあるのですから、政府は速やかに補正予算を組んで、さらなる貨幣発行(財政支出)を急がねばならない。

つまり、岸田総理が言うような「還元」するとかしないとかの問題ではないのです。

次いで、「税収増分を国債の償還に使った」と、なかば自慢している鈴木財務相ですが、自国通貨建ての国債を発行している国において、償還を通じて国債発行残高を減らそうと試みる奇妙な国は世界広しといえども日本だけです。

自国通貨建て国債については、どこの国でも永遠に「借り換え」の連続であり、国債発行残高を増やし続けています。

実は日本においても、国債は常に「借り換え」の連続ですので、結果として返済していません。

ゆえに鈴木財務相の「税収増分を償還に充てた」は、正確な表現ではない。

そもそもおカネには色がついていないので、税収増分のどの部分を国債償還に充てたのかなど確認のしようがない。

それに、償還された分は再び借り換えが行われるものです。

森本毅郎氏については、もう説明の必要もないでしょう。

国債(自国通貨建て国債)は償還する必要のない借金なのですから「将来のツケ…」などになろうはずがない。

詰まるところ、総理、財務相、それを批判する森本毅郎、それぞれに「正しい貨幣観」をもっていないがゆえのやりとりです。