先日のブログでも取り上げましたが中国の一帯一路構想が行き詰まっています。
おさらいですが、一帯一路構想とは、陸路でアジアからヨーロッパを結び、海路でアジアからアフリカ、中東、地中海を経由してヨーロッパを結ぶことにより、各国との関係強化をはかり中国の経済・軍事・外交上の優位性を究極的に高めていくというものです。
さて、G7加盟国として唯一参加していたイタリアが、ついに一帯一路構想から離脱する可能性がでてきました。
もしもイタリアが離脱すると、一帯一路構想そのものが崩壊し中国経済に甚大なる影響を与えるのみならず、他の国にも大きな影響を与えることが考えられます。
ことし5月9日、イタリアのメローニ首相と米国のマッカーシー下院議長がローマで会談を行った際、メローニ首相から「一帯一路構想から離脱する…」という意向が示されたとの報道がありました。
イタリアの離脱に関しては以前から噂話がでていたため、特に驚くべきニュースでもありませんでしたが、改めて離脱の方向性が示された格好になりました。
さらに6月20日、イタリアのタヤーニ外相が「イタリアは一帯一路の恩恵を受けていない」と発言。
これらの報道や声明は、イタリア政府が一貫した方針をもって離脱する方向にあるということを示していると言っていいでしょう。
米国と中国の関係が悪化してきたこともあり、一帯一路への参加が米国からの要らぬ反感を招く恐れもあるのでしょう。
イタリアはG7及びヨーロッパの大国のなかで唯一の参加者として、インフラ分野などのビジネス協力を展開するほか、中国からの投資増を促すことにより景気回復の一助と成す目論見であったようです。
ところが、2020年に発生した新型コロナ・パンデミックが計算を狂わせたようです。
まず、パンデミックの影響でイタリア人の中国への警戒感が高まってしまったこと。
また、パンデミックへの対応の失敗もあって政権交代が繰り返され、対中政策が大きく揺らいでしまいました。
例えばドラギ政権などは、中国寄りの政策から転換し、人権問題で中国に厳しい立場をとった挙げ句に、一帯一路への参加の見直しを表明しました。
その後、2022年にメローニ政権が発足し、より一層の「脱中国」政策を進める方向となりました。
メローニ首相は、首相に就任する以前から台湾贔屓です。
しかも「EUは、対中国の圧力を強化すべきだ」と主張していたほどです。
ただ、そのメローニ政権も既に支持率が芳しくないことから、この先の政局は極めて不透明です。
メローニ政権の支持率が低い政治的理由は、物価の上昇、実質賃金の低下、移民政策などが挙げられます。
とりわけ、メローニ政権は「移民を一切イタリアに上陸させない…」という公約を掲げていたくせに、移民の数は減るどころか増加しているために、ネイティブ・イタリア人の不満が高まっているらしい。
こうした国内経済の低迷や不満が、「一帯一路になんか協力している場合ではない…」というイタリア世論を形成しているようです。
とはいえ、経済面からみますと、イタリアと中国は互いに重要な貿易相手国です。
イタリアは、高級ブランド品や高級車などを中国に輸出し、自動車や機械などを輸入しています。
もしも一帯一路から離脱すれば、こうした貿易関係にも大きな変動を与えることになりますので、当然のことながらイタリアの産業にダメージを与え、中国市場へのアクセスやイタリア市場への供給に大きな変化をもたらすことになるでしょう。
一方、イタリアのような重要な欧州諸国の一帯一路構想からの離脱は、中国にとっては政治的・経済的な挫折を意味します。
イタリアが中心的な役割を果たしてきた地域的なプロジェクトへの支援減少も考慮すると、これにより他のEU諸国への影響が出てしまうことは必至です。
G7の一角を占めるイタリアの離脱が他の参加国に対し何の影響も及ぼさない、ということはありえないので、今後は離脱の連鎖が引き起こされるかもしれません。