きのう、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が分科会を開きました。
例によって、少しでも財政支出を減らすための屁理屈が議論されています。
その屁理屈とは、次のとおりです。
国交省の所管する公共事業について「投資額に対する経済効果の高さを推定する費用便益分析で将来の人口減少の影響が考慮されていないケースがある…」というもの。
費用便益分析とは、事業に着手するかどうかを判断する材料の一つで、国交省がマニュアルを策定しています。
行政のあいだでは、ビーバイシー(B/C = Benefit/cost)とも言われています。
例えば、川崎市が「市内に地下鉄を整備したい…」といっても、そのビーバイシーが「1.1以上」なければ、国は事業として認めてくれず、1円たりともおカネを出してくれません。
要するに、100万円の公共事業をやったら、必ず110万円以上の事業効果を発揮せよ、という国交省の事業化規制です。
事業効果が109万円以下なら事業としては認めてねぇ、というものです。
さて、財政制度等審議会としては「費用便益分析について、道路や新幹線については人口減少の影響を織り込む内容になっているものの、河川・ダム・港湾の整備には反映されていない…」と言いたいらしい。
分科会の会長代理を務める日本郵政の増田寛也社長は、「人口減少を加味して公共事業の効果を考えるべきだ。維持コストもふまえれば、事業をさらに慎重に選ぶことが重要だろう」と会議後の記者会見で述べ、その上で「財務省は、今後の公共投資の適切な規模を見極める必要がある…」とも指摘しました。
いわゆる新自由主義者特有の「選択と集中」というやつですね。
このように言われると「なるほど…」と思ってしまいがちですが、「人口が減少するんだから公共事業は要らない…」というのは、川崎市の副市長レベルの発想です。
話は全くの逆で、人口が減少するからこそ、一人あたりの生産性を向上させるための公共投資が求められているのでございます。
つまり、道路や新幹線についても、人口減少の影響を織り込んではならないのです。
日本よりも国土面積が狭く人口の少ないドイツの道路網を見よ。
ドイツの道路網は、我が国よりも網の目のように道路網が張り巡らされています。
複数車線の道路は多いし、日本よりもはるかに長い道路延長を誇っています。
ゆえに、一台の自動車が1時間で移動できる距離は日本の約2倍であり、面積にしたら約3倍にもなります。
日本よりも人口の少ないドイツの方が経済は成長し、一人あたりのGDPが大きいのは、こうしたインフラ投資の積み重ねの結果です。
「人口が減るから公共事業を減らせ…」という思想が、いかに間違っているかをドイツは証明しているのでございます。
一方、我が国では、昨年度(2022年度)平均の職業別の有効求人倍率をみますと、建設や土木は5倍を超え、介護サービスの3.65倍よりも高い水準にあります。
人手不足が深刻化しているため、せっかく仕事があるにもかかわらず、工事を着工できないケースがでています。
建設技能者数は2010年度から2022年度の間に331万人から302万人に減っていますが、むろん、ここでいう人手不足とは、日本の人口減少が原因というよりも、政府がこの20年間にわたり公共事業を減らしてきたことの結果です。
自分たちで公共事業(建設業従事者)を減らしておきながら、「人手不足だから公共事業を増やしても意味がない…」と嘆いているわけですから実にたちが悪い。
公共事業を減らしてきたことで経済は縮小し、経済が縮小しているから公共事業を減らすという悪循環に陥っています。
現今日本においては、すべての悪政の根源は財政破綻論者、すなわち「正しい貨幣観をもたぬ者たち」にあります。