中国の一帯一路構想が行き詰まっているらしい。
一帯一路構想とは、陸路でアジアからヨーロッパを結び、海路でアジアからアフリカ、中東、地中海を経由してヨーロッパを結ぶことにより、各国との関係強化をはかり中国の経済・軍事・外交上の優位性を究極的に高めていくというものです。
それが構想されてから、10年が経ちました。
一帯一路は、世界人口の3分の2をカバーする約65カ国との投資と貿易のつながりを拡大していく、極めて野心的な構想でした。
この10年、たしかに中国は途上国や新興国などへの経済進出を進めました。
その一方、進出先の国からは「過剰な債務を負わされたぁっ〜」という批判も強まっており、一時の勢いを失っています。
中国が初めて一帯一路フォーラムを開催したのは、たしか2017年ごろだったと記憶しています。
むろん、場所は北京で、参加国は100カ国にも及んだことが大きなニュースにもなっていました。
フォーラムの冒頭演説で習近平国家主席は「われわれが構築したいのは、調和して共存できるビッグファミリーだ」と叫んでいましたが、中国の本音は、当時中国で過剰生産された鉄鋼やセメントを「どうやって海外に輸出するか…」という捌け口論にあり、それが構想の発端だったとされています。
たしかに途上国側にしても理由は何であれ、「遅れているインフラ整備を中国の支援で進めてくれるのならありがたい…」という事情もありました。
しかしながら、例えばスリランカでは、中国による巨額の融資によって港湾施設を建設したものの、港の収益があがらずに借金の返済に滞り、中国側が港の運営権を引き渡すよう要求するという事案が発生しました。
いわゆる「債務の罠」問題ですが、むろんその背景には、中国がインド洋にかけての安全保障上(軍事上)の要衝を押さえるという目的があったことは言うまでもありません。
中国の企業が管理・所有するグローバルな港湾ネットワークが、中国海軍のために利用されるのは必然です。
その後も、一帯一路への反発は絶えませんでした。
インドネシアにおいても、一帯一路の名の下で行われたニッケルの精錬や加工事業では、中国から大量の労働者が送り込まれるなどして、ネイティブ・インドネシア人の雇用は全く増えなかったという。
ことし1月には、中国資本の精錬所で働く現地の従業員が、賃金や安全対策など労働条件の改善を求めて抗議活動を行うなどのトラブルも発生しています。
一方、ヨーロッパの主要国もまた、世界第二位の経済大国へとのし上がった中国との関係を強化することで「何らかの利益を得たい…」というスケベ根性もあってか、一帯一路構想への期待を強めてきました。
中国主導で立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも、こぞって嬉しそうに参加したのは記憶に新しいところです。
しかしその後、一連の開発プロジェクトに民間企業が参加するプロセスが不透明であったことや、中国企業が優遇されている疑いがあったことから、一帯一路への疑念は高まっていきました。
あるいは、中国が旧社会主義国を中心にした中欧・東欧の16か国と定期協議をもったことが、「中国はヨーロッパの分断を図ろうとしているのでは…」という疑念につながり、ヨーロッパ主要国の一帯一路への警戒感は益々強まっています。
先月も、G7の中で唯一、『一帯一路に関する覚書』を中国と交わしていたイタリアが、一帯一路から離脱する方針を非公式に伝えたと報じられています。
個人の人づきあいと同様に、国家の国づきあいもまた、よく考えたほうがいい。