水道事業などを民営化して失敗したフランスがその代表例のように、世界では公的サービスを再公営化する動きが大きな潮流になっています。
その潮流に逆らうようにして、川崎市では今さらながら公立図書館や市民館の運営を民営化します。
市議会で民営化議案が審議された際、当局(川崎市教育委員会)は私の質問に何一つ理論的な答弁をできていません。
「とにかく民間の創意工夫により、効率的な運営をしていきたい…」の一点張り。
ここで川崎市が言う「効率」とは、要するに経費(人件費)の削減です。
直営でやるよりも民営化することで川崎市の経費を圧縮できるものの、当然のことながらそこで働かされる人たちの給料は安い。(おそらく非正規雇用となるはずです)
公営の場合と民営の場合の給与水準の差を質問したら、概ね100〜150万円(一人あたり)軽減されるとのこと。
それでいて当局は、「そうは言っても、民営化したほうがサービス水準が上がります…」と繰り返す。
そこで私は次のように質問しました。
「あなた(答弁者)よりも働かされる人(しかも非正規で)が、あなたよりも100〜150万円も安い給与で働かねばならない合理的な理由を説明してほしい」と。
むろん、まともに答弁などできるはずもない。
それを正当化する合理的な理由などあるわけがないのですから。
この議案を審議していた際、私は「TPPに加盟するかしないか」の議論を思い出しました。
当局の「民営化すればサービス水準が上がります…」という言葉が、私には「TPPに参加すれば日本の農業の競争力が高まります…」と同じように聞こえたのです。
TPPはもともと、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4か国が進めていた自由貿易協定です。
それを、2008年のリーマン・ショックで疲弊していた米国が目をつけ、環太平洋における自由貿易協定に代え、米国を含む複数の国が参加する協定にしたのです。
当時、米国はTPPによって、輸出量を5年間で2倍にすること、そして雇用を200人増やすことを掲げていました。
そして、それまでの4か国のTPPには存在しなかった「金融」と「投資」の分野を新たな協議事項として加えたのでございます。
むろん、その標的は日本でした。
あのときも、米国が仕掛ける自由貿易協定がいかなるものなのかを知らぬ人たちが「バスに乗り遅れるなぁ〜」を合言葉にしてTPPへの加盟をことさらに推進していました。
米国と自由貿易協定を締結したカナダを見てみよ。
カナダは1989年から米国との二国間自由貿易協定の協議を進め、1994年にメキシコを加えたNAFTA(北米自由貿易協定)を締結しました。
結果、どうなったか。
上のグラフのとおり、それまでカナダが強い競争力を有していた分野でさえ、1997年には米国系企業に席巻されてしまったのでございます。
すなわち、自由貿易によってカナダの企業が競争力を高めることはありませんでした。
その国の長期的な経済発展は、国家や行政による懸命な政策関与なしには期待できないのでございます。
米国はTPPにより、日本の医療や農業など生活安全保障に関わる分野にいても同様のことを行おうと目論んでいたのは明白です。
にもかからず、TPPを推進した無知識日本人が大勢いました。
図書館を民営化した川崎市役所も、それに賛同した市議会議員たちも、いずれもその類(たぐい)です。