過去の遺産を破壊する者たち

過去の遺産を破壊する者たち

きのう、川崎市議会の9月定例会が閉会しました。

と同時に、これまで62年間使用してきた市議会本会議場の閉場式も行われました。

11月からは、新庁舎23階に設けられた新たな議場に舞台が移ります。

残念ながら、新たな議場には、速記者席は設けられていません。

なぜなら、経費節減の観点から、速記による議事録の作成が廃止になってしまったからです。

今9月定例会に提案された議案の一つに「川崎市議会会議規則改正案」があったのですが、私だけが唯ひとり改正案に反対したのは、そのためです。

速記とは、簡単な線や点でできた符号などを使って、人が話す言葉を驚異的なスピードで書き取る技術です。

それはそれは、凄い技術です。

速記に使われる符号は、五十音に準拠して考案されているらしいのですが、かなり簡略化されているので、漢字や平仮名を書くよりもスピードアップが図られ、しゃべるスピードに負けない速さで文字を書くことができるわけです。

むろん、そのままでは暗号のようになっていますので、それを解読して、きちんと整った文章に書き直す作業までが「速記」となります。

速記にも様々な種類と歴史があるようで、日本初の速記法は「田鎖式」というものだそうです。

田鎖式は英語の速記法を日本語に応用し、いわばローマ字書きのようにして書いていくために、日本語の一音をそのまま一画で表すことができなかったという。

要するに画数が多くなってしまい、どうしても時間がかかってしまったということなのでしょう。

そこで、できるだけ画数を少なくして書く量を減らしていこうと、いろいろな人が速記の術を考案したようで、速記法に様々な種類ができたのはそのためです。

そうした歴史を経て、現在では参議院式、衆議院式、中根式、早稲田式の4種に集約されました。

ちなみに、近年、我が国では国語力の低下が嘆かれていますが、国語力の向上は小学生から社会人まで、それぞれが各分野での知識・能力をアップさせるための基本であることは言うまでもありません。

なるほど、漢字や仮名の使い分け、言葉、文字、句読点のつけ方などはまさに国語力の基礎にあたります。

その意味で、速記法は国語力の向上にも役立つという。

速記法は、日本語で聞こえてくるいろいろな文章を耳で聞き取り、頭の中で意味を理解しながら速記符号を駆使して紙に書き取ります。

川崎市議会で速記をされていた方にお話をお聞きしたところ、耳で聞き取り難いときには発言者の口元を確認しながら速記することもあるそうです。

まさに、ヒトならでは作業です。

そして書かれた文章を読み取り、きちんとした文章に戻してくれます。

つまり、耳、目、手、頭脳をフルに活用しつつ、音声言語を文字言語に変換する作業ですから、自然と国語力がアップするのでしょう。

ぜひ、学校教育でも取り入れてほしいほどの技術です。

しかしながら、取り入れるどころか、川崎市議会では廃止するわけです。

考えても見よ。

日本語は世界唯一の母国語です。

また、我が国は固有の母国語によって近代国家を運営することができる唯一の国家です。

その固有の言語たる「日本語の速記法」を後世に伝えていくことこそ、利益追求を目的としていない政治行政の役割ではないでしょうか。

私たちが生きる世界は、「過去の遺産」に多くを依存して成立しています。

だからこそ「過去の遺産」を守り続けていかねばなりません。

その「過去の遺産」の代表的価値こそが日本語であり、それを速記する技術もまた「過去の遺産」と言っていい。

「過去の遺産」を重視するのが保守であるとするならば、今の川崎市議会にも、川崎市役所にも私以外に「保守」はいない。

昨日の閉場式でも、盛んに「不易と流行」という言葉が使われていましたが、彼ら彼女らが実際にやっていることは「不易」の破壊であり、「流行」の追求のみです。