貸借対照表で経済財政を考える

貸借対照表で経済財政を考える

かの有名な経済学者であるジョセフ・シュンペーターは、資本主義を次の3つの要件によって定義しました。

①物理的生産手段の私有

②私的利益と私的損失の責任

③民間銀行による決済手段の創造

この三つのうち、特に③の民間銀行による決済手段の創造が最も重要であるとシュンペーターは強調しています。

民間銀行による「決済手段」とは、要するに私たちが平素から使用している「銀行預金」や「銀行手形」のことです。

因みに、この世に流通しているおカネは、その多くが「銀行預金」であって現金ではありません。

当該ブログにおいては耳にタコができるほどに繰り返しておりますが、民間銀行は手元に資金などなくとも、貸出しを行うことができます。

そして、貸出しを行うことによって民間銀行は銀行預金という貨幣を創造しています。

即ち、世に流通しているおカネの大部分を現実的に発行しているのは、政府ではなく民間銀行なのです。

しかしながら、預金が貸出しを生むのではなく、貸出しが預金を生んでいるという事実が、なかなか世間には理解されていません。

多くの人々が、だれかが集めた金銀を元手にして預金が発行されているのだと誤解しています。

詰まるところ、おカネとは何か、という最も根源的な知識の欠如だと思います。

おカネとは、金銀などの「モノ」よって価値が内在された商品券ではなく、単なる「信用」と「負債」の関係を記録する計算単位にすぎません。

例えば、一万円札、五千円札、千円札などの現金紙幣(日銀券)は、日本銀行が発行した借用証書(負債)であり、それを保有する者にとっての資産(信用)であることを確認するための紙媒体(情報)なのです。

これを民間銀行は、無から創造することができるわけです。

このように言うと、「民間銀行は打ち出の小槌のように無限におカネを発行できるのなら、無理して金貸しなどの商売をする必要なんかないのでは?」と言う人がいます。

何度でも言います。

おカネとは「負債」です。

民間銀行が発行しているのは「負債(債務)」であって、「資産」ではありません。

当然のことながら、債務超過に陥れば民間銀行も倒産します。

経済が豊かになるというのは、企業や家計など民間部門の純資産が増えることです。

例えば、川崎市という地方自治体が、メインバンクである横浜銀行から10億円を借り入れたとしましょう。

すると、横浜銀行のバランスシート(貸借対照表)の負債の部(貸方)には10億円の預金通貨が、資産の部(借方)には10億円の借用書が計上されます。

一方、川崎市のバランスシートの資産の部(借方)には10億円の借用書が、負債の部(貸方)には10億円の預金通貨が計上されることになります。

このとき、世の中には1円たりとも純資産は増えていません。

川崎市が借りた10億円を公共事業や福祉施策などで支出してはじめて、民間部門の純資産が増えるわけです。

10億円を返済する川崎市は、租税(市税)などでおカネを回収し、時間をかけて横浜銀行に返済するわけです。

通貨発行権を有しない地方自治体としては単独で純負債だけを増やすわけにもいきませんので、実際には国(中央政府)から国庫補助金や地方交付税交付金などをもらいながらやりくりをしています。

要するに、誰かが純資産を増やすためには、他の誰かが純負債を増やさねばならないのでございます。

むろん、最も純負債を増やさねばならない経済主体は国(中央政府)です。

「国の借金(負債)がけしからん…」と言っている人たちがいかに無知であるのかが、よくお解り頂けるのではないでしょうか。