地政学は、19世紀における英露の覇権争いから生まれました。
当時、ユーラシア大陸を陸から抑えるロシアに対し、英国は7つの海と海洋権益を支配することでユーラシア大陸を海から封じ込めようとしていました。
そこに、ランドパワー地政学とシーパワー地政学の衝突があったわけです。
その後、国際社会に影響力を持つような国々では、常に「地政学」を考えることが常識となっていきました。
当然のことながら、戦前の日本にも地政学はありましたが、大東亜戦争に敗れて以降、占領統治を経て我が国から地政学は奪われてしまったのです。
日本では、政治家であれ、学校の先生であれ、地政学の視点で政治経済を語る人が少ないのはそのためです。
GHQが日本から地政学を奪ったのは、我が国が再び地政学を考えるようになっては彼らにとって脅威だからです。
地政学とは、その国が置かれている地理的条件から、その国の行動を読み解く学問です。
基本的に地理は不可知なものではなく、私たちにとって「分かっている」ものです。
むろん、大陸移動説に従えば、いずれは地理も変化するのでしょうが、私たちが生きている時代に大きな変化が起きることはなさそうです。
ゆえに、いかなる国も地理的制約からは逃れられないのでございます。
よく日本は島国根性などと言われますが、島国には島国の気質があるように、大陸にも大陸根性が、半島にも半島根性があるものです。
なので、その国の国民性が地理によって規定されることはあると思います。
地政学では、主としてそれぞれの国を「シーパワー(海洋パワー)」と「ランドパワー(大陸パワー)」に分けています。
例えば、日本や英国は典型的なシーパワー国家であり、ロシアやドイツは典型的なランドパワー国家です。
では、米国はランドパワーとシーパワーのいずれに属しますでしょうか?
地政学において米国は、シーパワーに分類されます。
つまり米国は、北米大陸に位置しつつも、地政学的には大西洋と太平洋に挟まれた島(米国島)と見做されているわけです。
なるほど、たしかに米国は地理(海)がもたらす境界線から大きな恩恵を得てきました。
1815年以降、英国が北米の米国覇権に異を唱えなかったのもそのためです。
海を挟んで3,000マイルも離れた場所に軍隊を駐留させるのは、世界最大のシーパワーである英国と言えども、実にコストがかかり過ぎます。
なお、米国は大陸横断鉄道を整備することで東海岸と西海岸とを結び、広大な二つの海洋(太平洋と大西洋)にスムーズにアクセスできるようにもしました。
すなわち、地理的環境ゆえに米国は、北米大陸での地域的覇権を手に入れるに至ったのです。
そして、第一次世界大戦、第二次世界大戦、米ソ冷戦期等々、ドイツやソ連による「欧州大陸を支配しようとする試み」から欧州を救い出す政治的、経済的、軍事的手段を米国が行使できたのはこのためだったと言っていい。
さて、今やアジアの大国と化したランドパワー国家・Chinaを、シーパワー国家・日本が地政学の観点からどのようにして封じ込めていくのか…
まさに地政学が求められています。
むろん、そこには当然のことながら経済的視点も必要になりますので、地政学というよりも「地政経済学」が今こそ求められています。