武見厚労相が17日のNHK討論番組で「税収増を(社会保障の)財源としてどのように活用していくか、安定財源にしていくかは財務当局と議論する必要がある」と述べていました。
要するに武見厚労相は「税収の上振れ分を活用し、それをもって診療報酬や少子化対策などの社会保障の財源とする」と言っています。
残念ながら、正しき貨幣観を持たぬ連中は、あくまでも「財源=税収」という思考回路から逃れられないのです。
詰まるところ、正しき貨幣観を持たぬ連中は資本主義の本質さえ理解できていないと言えます。
私たちが暮らしている現在の日本経済が資本主義経済であることはご承知のとおりです。
ですが、「資本主義とは何か?」と改めて問われると、答えに窮する人たちも少なくないのではないでしょうか。
偉大なる経済学者であるジョセフ・シュンペーターは、資本主義を次の3つの要素を有するシステムとして定義づけしています。
①物理的生産手段の私有
②私的利益と私的損失の自己責任
③民間銀行による決済手段の創造
なるほど、物理的生産手段を私有させないのが「社会主義」ですね。
シュンペーターは、この①②③のなかで、③の「民間銀行による決済手段の創造」こそが資本主義にとって最も重要な機能であると指摘しています。
ここでシュンペーターが言っている「決済手段」とは、預金通貨や銀行手形のことです。
現実として民間銀行は、信用創造によって「無」から貨幣(預金通貨)を生み出すことができます。
民間銀行は、かき集めた預金を他の誰かに又貸ししているわけではないのでございます。
例えば、A銀行が、B企業に1,000万円の融資を決めた場合、B企業がA銀行にもつ預金通帳(BS上の借り方)に1,000万円と記帳されるだけです。
すなわち、A銀行は「無」から1,000万円という預金通貨を創造したのでございます。
このときA銀行が重視するのは、B企業の「返済能力」です。
借り手の返済能力さえ担保されていれば、民間銀行の預金通貨を創造する力、つまり信用創造の力は無限と言っていい。
さらに重要なのは、このときB企業には1,000万円のおカネを借りれば必ず儲けることができる、という具体的な資金需要(仕事)があることです。
つまり資金需要(仕事)そのものが、A銀行による貨幣(預金通貨)の創造を可能にしたわけです。
これを政府と中央銀行に当て嵌めても同様です。
A銀行を「中央銀行」に、B企業を「政府」に置き換え、それこそ政府に「少子化対策」という具体的な資金需要(仕事)があったとします。(現にあるのですが…)
中央銀行(日本銀行)は、政府の預金通帳(日銀当座預金)に、それに必要な金額を記帳するだけです。(法律上の問題により、実際には民間銀行に国債を引き受けさせるというオペレーションを採っています)
政府は、中央銀行が創造してくれたカネにより少子化対策のために支出するわけですが、これもまた「無」からの信用創造であり、まさに中央銀行による貨幣発行です。
因みに、主流派の経済学者が言うように、貨幣発行量が一定水準を超えて増えれば、当然のことながらインフレ率(物価上昇率)が高まります。
その高まり具合をマイルドにするために、政府は支出した「貨幣」の一部を回収するわけです。
それが租税(税金)です。
したがって、税金はインフレ率を調整するための手段であって、財源ではありません。
繰り返しますが、財源は需要なのです。
そして、それを可能にするのが「銀行による決済手段の創造」であり、すなわち資本主義です。
まことに失礼ではありますが、武見厚労相は貨幣と資本主義をご理解されていない、と言わざるを得ません。