ドイツには「ソーセージと法律は、作る過程を見ない方がいい」ということわざがあります。
その意味するところは「どんなにきれいにまとまった良い政策でも、その立法過程(政治)は醜悪である」というもの。
なるほど、法律の名称からはその中身がよくわからず、それが制定された背景にはとんでもなく恐ろしい真意が隠されている場合も少なくない。
昨年11月、国会で「日本国とアメリカ合衆国との間の防衛協定を改正する議定書の締結について承認を求めるの件」という法案が可決成立したのをご存知でしょうか。
長たらしい法案名ですが、要するに日米FTA(日米の自由貿易協定)に関係する改正法です。
トランプ前大統領のとき、米国はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から脱退しました。
そこでトランプ前大統領は日本に対し「TPPじゃなくて、FTAでやろうぜ…」と言ってきたわけですが、これはトランプ前大統領が米国の農業や畜産業に約束していたことでした。
おそらくは「TPPよりも、もっと大きな成果を日本からもってくるからよ…」と、米国の農業や畜産業の関係者に大見得を切ってきたのだと思われます。
日米FTAのなかには、米国から日本に輸入されてくる農産物が一定量を超えた際、日本国内の生産者を守るために「日本政府がストップをかける緊急輸入制限措置(セーフガード)」というルールがありました。
具体的には、外から入ってくる製品にかける関税を一時的に引き上げることで入ってくる輸入量にブレーキをかける、というものです。
ゆえに一昨年の3月、輸入量が242,000トンという上限を超えたために日本政府はこのセーフガードを発動しています。
一度セーフガードが発動されると、なぜか改めて協議がなされ基準が変更されます。
よって今は、252,000トンが上限になっているものと思われます。
当初は293,000トンを最終上限にすることが約束されていたのですが、一昨年3月のセーフガード発動を受け、昨年10月に米国と協議した結果、日本政府(外務省)は次の内容の議定書を締結したわけです。
「米国からの輸入量がセーフガード発動基準(252,000トン)を仮に超えたとしても、TPP参加国からの輸入量全部と合わせた合計(TPP向けの枠は637,000トン)に収まっているかぎり、米国の牛肉にはセーフガードは発動しない」
ご承知のとおり、日本の輸入牛肉は、米国産とオーストラリア産で9割を占めています。
ということは米国の牛肉は、事実上、上限が無いに等しい。
昨年11月に国会で成立した「日本国とアメリカ合衆国との間の防衛協定を改正する議定書の締結について承認を求めるの件」という法案が可決成立したのは、こうした経緯があってのことでした。
その際、米国のエマニュエル駐日大使は次のように述べています。
「今回の合意内容は、日本の消費者にとっての勝利だ」と。
すなわち、「品質のいい米国産牛肉が、これからたくさん日本市場に入ってくるんだから、日本の消費者よ、感謝しろ」と言いたいのでしょう。
いま、我が国の畜産業者がどんな状況にあるのかご存知でしょうか。
我が国は家畜の飼料をほとんど輸入に頼っていますが、ご承知のとおり、コロナとウクライナ紛争によって輸入飼料の価格は上昇し続けています。
むろん、ガソリンなどの燃料費も上がっています。
飼料費や燃料費が高くなっているため、せっかく育てた子牛が適正価格で売れなくなり、やむなく子牛を安楽死させねばならないところまで追い詰められているわけです。
結果、多くの畜産農家が廃業に追い込まれているのは周知のとおりです。
その一方、牛を早期淘汰した場合、1頭あたり15万円の助成金を国が交付しています。
これにより、なんと4万頭の削減を目指しています。
国内供給能力を維持・向上させることこそが必要であるのに、こんな馬鹿げた政策(助成金)を行っていたら畜産業の国内供給能力は益々もって毀損してしまいます。
こんなことを平然と許してしまう政治(国会)に、心底辟易します。