日本政府のように、「円」という自国通貨建てでの国債発行が可能な国、及び変動為替相場制を採用している国のことを「主権通貨国」と言います。
米国、英国、カナダもそうです。
因みに中国は変動為替相場制ではありません。
管理フロート制といって一定のレートで米ドルとペッグされています。
主権通貨国では、インフレ制約の範囲内において、その通貨発行量(財政支出の拡大)に上限はありません。
ゆえに主権通貨国にとっての国債発行残高とは、通貨発行残高に過ぎません。
そこで、現在の我が国のインフレ率を消費者物価指数(前年同月比)でみてみますと、上のグラフのとおりコアCPIで0.1%、コアコアCPIでマイナス0.3%です。(2021年5月時点)
とりわけ、エネルギー資源の多くを輸入に依存している我が国においては、食料とエネルギー資源を除いたコアコアCPIをインフレ率として重視しなければならないわけですが、そのコアコアCPIがご覧のとおりマイナスの状態です。
インフレ率がマイナス!
この20年間、インフレ率がゼロ%水準で推移しているということは、日本経済がデフレ状態にあるということです。
要するに現在の日本政府には通貨を発行する(財政支出を拡大する)余地が充分過ぎるほどにあるということになります。
ところが、日本政府は財政規律(プライマリーバランス)を理由に財政支出を抑制し続けています。
コロナ対策費として確保されているせっかくの予算でさえも、なんと30兆円分が使われていないことが判明しています。
さて、一転して話は変わりますが、1970年代の米国はインフレ率の上昇に悩まされていました。
このころ米国のインフレ率が上昇した理由は諸説ありますが、おそらくはベトナム戦争による戦費の拡大、オイルショックによる原油高、ニクソン・ショック(変動為替相場制への移行)にともなうドル安等々がその主たる要因であったろうと推察されます。
一方、当時の米国では、保守派と言われる論客たちがまったく異なる観点からインフレ率上昇の背景にあるものを論じました。
その論とは次にようなものです。
「いわゆるベビーブームで急増した若い世代が当時の既存権威を否定し、政治参加や福祉を一方的に要求するようになった。結果、政府の福祉政策が膨張し、財政赤字が拡大するに至った。しかも労働組合の力が強かったために賃上げが天井知らずとなってしまったことで、米国のインフレ率が上昇したのだ」
保守派の代表格だったサミュエル・ハンチントンなどはこれにより「財政赤字とインフレは民主主義が過剰になったせいだ」と結論づけました。
実はこのことが、不幸なことに「保守派」と「新自由主義」とを結びつけるきっかけとなったのです。
現在の我が国でも、いわゆる団塊の世代で「保守派」と言われる論客たちが財政支出の拡大を戒める「新自由主義」に共鳴していますが、彼ら彼女らの発想の根底には1970年代のハンチントンらの「民主主義の過剰」理論があるのだと思われます。
百歩譲って、仮にハンチントンを含め彼ら彼女らの言う「財政赤字とインフレは民主主義の過剰だ」という理論が正しかったとするならば、「PB黒字化とデフレは民主主義の過小」ではないのか!?
日本国憲法(占領憲法)第83条にも「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」とあります。
しかしながら政府(財務省)は、前述のとおり国会が議決した予算の一部を執行していません。
憲法では、日本国民から正当に選ばれた国会議員たちが国家権力を行使し、その福利を日本国民が享受することになっています。
残念ながら現実にはそうはなっていないのですから、やはり「民主主義の過小」と言っていいのでは…