2018年、マサチューセッツ工科大学(米国)の研究チームが面白い分析を行い、実に興味深い調査結果を発表しています。
この研究チームは、ツイッター上で過去10年間に「噂」として拡散された約13万件の投稿を分析しました。
結果、嘘の情報は真実の情報に比べて、6倍から20倍も早く伝播し、より広範囲に拡散したとのことです。
嘘情報が瞬く間に拡散する背景には何があるのでしょうか。
たしかに人間心理というものは、より奇抜な情報に飛びつきやすいし、嘘情報そのものが世に鬱積した政治経済に対する不満をたきつけることもありましょう。
それを利用し、事実に反する情報を意図的に流布することで、他国の政治や社会に混乱をもたらそうとする国もあります。
こうした情報戦略と、その能力を有した国のことを「大国」と言う。
世界はまさに大国間競争の時代であり、独自の情報戦略をもたない我が国においては、特に情報戦への対応が安全保障上の喫緊の課題となっています。
例えば昨今、台湾有事への備えが叫ばれていますが、有事の際には物理的な軍事行動の前に情報戦や心理戦が仕掛けられる可能性が高い。
いわゆるハイブリッド戦です。
即ち、軍事と非軍事、あるいは有事と平時の境界線を曖昧にした手段を駆使して、ときには情報的手段で、ときには経済的手段で目には見えぬかたちで攻撃を仕掛けてくるわけです。
こうしたハイブリッド戦に特に長けている国が、中国であり、ロシアです。
偽情報によって他国を心理的に揺さぶり、プロパガンダで自国民を扇動する。
むろん「情報戦」そのものは新しいものではありませんが、この問題がいま特に注目されているのは、デジタル技術の急速な進展により、処理しきれない程の情報がインターネット空間にあふれているからでしょう。
偽情報、あるいは悪意ある情報が、SNSなどを通じて、これまでとは比較にならないほどのスピードで拡散していくわけです。
この種の情報が、民主主義への信頼や国の安全保障に悪影響を与える国益上の武器となっています。
こうした情報戦、あるいはハイブリッド戦に対し、我が国はどのように対処するのか。
一応、日本の新たな『国家安全保障戦略』に情報戦への体制強化が盛り込まれています。
この中で政府は「内閣情報調査室が偽情報などの収集分析にあたり、内閣広報室が正しい情報発信で対抗する…」としています。
一方、防衛省は、陸海空自衛隊それぞれに専門部隊を編成し、AIによって偽情報などを自動で検知するシステムを導入しようとしています。
しかしながら、これらの対策は体制面でも制度面でもまだ緒についたばかりです。
いざという時、例えば中国などが仕掛ける情報戦に対し、その影響力を無害化する機敏な行動がとれるのかどうか。
情報当局や為政者たちの対応能力が問われるところです。
情報は、収集すればいい、というものではありません。
それを分析する力、分析情報を工作に用いる力が必要です。
情報の収集、分析、工作、これらの能力こそが真の情報力です。
これらは我が国が最も不得手とするところです。
そして何より、情報戦に立ち向かうには、国民一人ひとりの情報リテラシーの高さも求められます。
要するに社会全体として偽情報に対する抵抗力もっていなければならないわけですが、これまた日本国民の不得手とするところです。
維新の会が躍進するようでは、「(国民全体としての)情報リテラシーが高い…」とは決して言えません。