ことし第1四半期(1〜3月期)の法人企業統計をみますと、企業が手持ちの現預金を増やしていることがわかります。
論より証拠で、上のグラフをご覧のとおりです。
グラフは総資産に占める現預金の割合を示しています。
とりわけ中小企業は総資産の2割強となっており、大企業の3倍にまで膨れ上がっています。
さて、このことが国民経済にとってどのような意味をもっているのか、良いことなのか、悪いことなのか、残念ながらそれを理解できる国会議員や地方議員はそうそういない。
財務省の御用新聞みたいな新聞社(日本経済新聞)は、次のように解説しています。
「もしもの時の命綱として貯蓄を増やしているもようだ。新型コロナウイルス禍で過度に保守的な経営になり、必要な投資に資金が回っていない恐れがある」(2023年8月17日)
むろん、そうした理由もあるのかもしれませんので決して否定はしませんが、ただ「保守的な経営だから必要な投資をしていない恐れがある…」の部分には異論があります。
まず、現預金を発行しているのは政府や銀行で、それを企業が内部留保として貯め込んでいるわけですが、上のグラフをご覧のとおり、バブル崩壊以降に中小企業が現預金の割合を増やしはじめたのは、コロナ以後のことではなく1990年代の後半からです。
1990年代後半といえば、ちょうど日本経済がデフレに突入した時期です。
要するに、デフレ突入と同時に、中小企業は内部留保の貯め込みをはじめたのでございます。
日本経済新聞が言うような「保守的な経営だから…」ではなく、デフレで需要が見込めないから投資を抑制し、その結果として現預金比率が増えているとみるべきではないでしょうか。
円安に伴う輸入物価上昇により、一部の分野ではインフレが進行していますが、それはあくまでもコストプッシュ・インフレであって、需要増大型のデマンドプル・インフレではありません。
実質賃金が上昇し、商品やサービスが売れに売れて物価が上昇しているのであれば、企業は生産性向上のために必要な設備投資や技術開発投資を行うでしょうけど、現実は単にコストプッシュによって物価が上昇しているだけであり、全体的な基調として日本経済は未だデフレです。
デフレなのですから、企業投資の拡大を期待するほうが無理な話です。
そもそも現預金などの内部留保を増やすべき経済主体は「家計」であって、企業ではありません。
従って、企業が現預金などの内部留保を増やしているということは、国民経済にとって良いことではないのです。
因みに、企業が抱えている現預金は当然のことながら企業の資産ですが、その反対側で必ず負債を増やしている経済主体があります。
むろん、政府です。
即ち、企業が保有している現預金は、これまで政府が発行してきた負債(貨幣)の蓄積です。
これを理解していない人たちは、企業が現預金を増やしたことをもって「政府が国債を発行する余地が増えた…」とお門違いなことを言っています。
政府による国債(貨幣)発行は、企業や家計の資産を原資にしているわけではありません。
事実はまったく逆で、政府による国債(貨幣)発行こそが「先」であり、その結果として企業や家計などの民間部門におカネ(現預金)が蓄積されていくわけです。
では、企業が蓄積している現預金を吐き出させ、それを家計に移すにはどうすればいいでしょうか?
信じ難いことでしょうが、政府がさらに国債を発行し、需要を創造することです。
需要を見込んだ企業は、必ず投資(負債)を拡大することになります。
政府と企業の負債が拡大すれば、自ずと家計の資産(現預金)が増え、結果としてデフレが解消されることになります。
誰かの負債は、必ず誰かの資産なのですから。