きまって支給する給与は、17ヶ月連続でマイナス

きまって支給する給与は、17ヶ月連続でマイナス

国民経済において「豊かになる…」とは、実質賃金が上昇することを指します。

実質賃金とは、物価の変動を除いた賃金のことです。

経済指標で「実質」と言った場合、必ず「物価の影響を除く…」と覚えておいて頂ければ結構です。

例えば、給料が5%上がったとしても、物価が10%上がってしまえば豊かになったとは言えません。

なにしろ、稼ぐ給料で買えるものが減ってしまうわけですから。

逆に、給料の伸びが3%足らずでも物価上昇率が1%であれば、少しずつではあるけれど、給料で買えるものが増えていきます。

要するに、実質賃金は私たちがもらう給料の金額、つまりは名目賃金から物価の影響を排除するかたちで計算されます。

具体的には、我が国の実質賃金は「名目賃金」を「持ち家の帰属家賃を除く総合消費者物価指数」というインフレ率で除すことで求められます。

なお、名目賃金や実質賃金にも、いろいろ種類があります。

例えば「現金給与総額」「きまって支給する給与」「所定内給与額」などです。

厚生労働省は、名目賃金や実質賃金を「指数」によって公表しています。

なぜなら、特定の時期と比べ、どれだけ変化したかをみるためです。

現在の賃金統計では名目も実質も2020年を100として計算されています。

さて、昨日(8月8日)、厚生労働省から6月の実質賃金(速報値)が発表されました。

メディアはこれを「前年同月比で1.6%減少、15か月連続のマイナス」と報道しています。

しかし、ここで言うところの実質賃金は、現金給与総額のことを指しています。

現金給与総額ですから、この中に賞与や残業代などが含まれます。

これが「15ヶ月連続でマイナスである…」として報道しているわけですが、なぜかメディアは、この現金給与総額のことしか報じていません。

もうひとつの指標である「きまって支給する給与」については、上のグラフのとおり前年同月比で2.4%減少、なんと17ヶ月連続でマイナスになっています。

なお、我が国の実質賃金は、1997年のピークと比較して、すでに15%以上も落ち込んでいます。

これだけ長期にわたって実質賃金が落ち込んでしまったのは、内戦や革命で苦しんでいる国や地域を除けば、歴史上、日本が初めてのことになります。

なぜ、このような状況になってしまったのでしょうか。

それを理解するためには、所得創出のプロセスを知る必要があります。

私たちの所得は「付加価値の単価 ☓ 生産量」で計算されます。

例えば、物価が5%上がった場合、付加価値の単価が5%上がることになりますので、計算される所得も5%上がることになります。

とはいえ、所得が5%上がっても、物価が同じように5%上がっていますので、実質賃金は変わらず。

実質賃金を増やすには、物価の上昇以上に所得が拡大しなければならないわけですが、逆にデフレで物価が5%下落した場合、「付加価値の単価 ☓ 生産量」で計算される所得もまた5%減ってしまうこととなり、やはり実質賃金は変わりません。

お解りでしょうか。

実質賃金は、付加価値の単価で決まるのではなく、「生産量」及び「労働分配率」で決まるのでございます。

1997年以降、我が国はデフレ経済により多くの産業分野で「生産量」が増えておらず、加えて株主資本主義の深化によって「労働分配率」が抑制されてきたのでございます。

実質賃金が増えることを「豊かになる」と言うわけですから、実質賃金の長期的下落は「国民の貧困化」を意味します。