我が国の情報管理体制

我が国の情報管理体制

2001年6月、日本の外交電文が、米英など英語圏5カ国(ファイブ・アイズ)の通信傍受システムネットワーク、いわゆるエシュロンに傍受されている事実が毎日新聞に掲載されました。

エシュロンは日本の外交情報をJAD(ジャパニーズ・ディプロマティック・インテリジェンス)の暗号で呼び、当時、エシュロンのなかでオセアニアにおけるJAD情報の傍受を担当していたのはニュージーランドの情報機関(GCSB)でしたが、おそらく今もそうでしょう。

とりわけ、1981年以降のGCSBによる通信傍受は、オセアニア各国にある日本在外公館の外交リポート、貿易・漁業交渉報告、途上国への支援内容、ビザ関連などの情報収集が主たる標的でした。

例えば、これにより日本政府が第三国と進めていた石炭売買契約の価格が傍受され、その後のニュージーランドの石炭輸出に有利に働いたことがありました。

あるいは、日本の海外援助による施設建設などにおいても、ニュージーランドの企業が参入できそうな計画情報を事前に入手していたという。

1990年代半ばにはGCSBのワイホパイ基地に電話など音声通信の盗聴設備も導入され、日本の在外公館以外にも南太平洋で創業する日本漁船やプルトニウム運搬船の通信も傍受できるようになったらしい。

GCSBによって収集された機密情報は、当然のことながら悉くNSA(米国国家安全保障局)に送られ、米国の対日政策にも利用されていたようです。

毎日新聞の取材に対して当時の外務省は「傍受されたのは簡略な電文であり、超極秘の外交電文を解読するのは不可能のはずだから、日本の外交機密はしっかりと守秘されているものと確信している」と答えていますが、果たしてどうか。

冷戦時代のファイブ・アイズは東側陣営の軍事・外交情報を通信傍受の主たる標的としていたのでしょうが、1980年代以降は同盟国の経済情報に矛先を向けました。

エシュロンは、オセアニアのJAD収集についてはGCSBが担当していますが、日本周辺の傍受は青森県の三沢基地(米軍基地)で行われています。

因みに、沖縄県読谷村にあった在日米軍施設(楚辺通信所) の通信アンテナは、通称「象の檻」として知られ、米軍軍事通信の傍受施設として使用されていたのは有名な話です。

なお、六本木にある米軍施設内に「星条旗新聞社」(米軍の広報機関)がありますが、その地下には米海軍の通信傍受基地があることも既に知られています。

日本の政界、官界、経済界、芸能界、マスコミ等は、ことごとく彼らの監視対象であると思っていい。

よく政治家や芸能人のスキャンダルが週刊誌にすっぱ抜かれることがありますが、おそらくその情報源の一部は海外の諜報機関であると思われます。

さすがに電話や電子メールなどの機器を通信傍受されてしまっては、機密情報を保持することは実に困難です。

「だったら電話や電子メールなど使わなければいいじゃないか…」と思うかもしれませんが、そうもいきません。

こうした通信傍受による情報収集をSIGINT(シギント)と言いますが、彼らはそれだけでなく、通信傍受を使わず人間による情報収集(ヒューミント)も行っています。

なにせ我が国は、スパイ天国ですから。

ところで近年、ファイブ・アイズの機密情報共有の枠組みに日本が入るという情報がテレビでもネットでも流れています。

日本が独自の情報収集網を極東圏で構築しつつあることから、ファイブ・アイズも日本の情報を欲しがっている可能性があります。

もし日本のファイブ・アイズ入りが実現すれば、我が国としてもファイブ・アイズが取得した情報を獲得することができます。

このことはテロ対策のほか、外交・安全保障上の有益情報の収集に大いに役立つことになるでしょう。

ただその後、日本のファイブ・アイズ入りの話が取り沙汰されていないところをみると、まだまだ日本の情報管理体制に多くの課題があるのかもしれない。

我が国が大東亜戦争で敗北してしまった最大の要因は、情報と兵站の軽視にあったことを忘れてはならない。