インボイス制度導入が10月に迫っています。
それにつけても、昨日の川崎市議会(総務委員会)での公明党所属委員による発言には驚かされました。
「税の公平性の観点からも、インボイス制度は導入されて然るべきだ…」と言い放ったのです。
もしもインボイス制度の本質を理解した上でこの発言をされたのであれば、私には鬼にしかみえない。
ただ、この先生は平素から聡明で人間的にも穏やかでお優しいご性格の方なので、おそらくは消費税への理解不足による発言だったと信じたい。
まず、理解しなければならないことは、消費税は間接税ではなく直接税であるということです。
税を納める義務のある者と、税を負担する義務のある者が同一の場合、これを直接税と言います。
一方、税を納める義務のある者と、税を負担する義務のある者が同一でない場合には、これを間接税と言います。
消費税は紛れもなく「事業者」に課せられた税であり、事業者が消費者から預かった税を国に納付しているわけではありません。
このように言うと「えっ、消費税って消費者が負担しているんじゃないの?」と疑問に思われる人もおられるでしょうが、事業者が消費税分を価格に転嫁することを国税庁が推奨しているだけであって、消費者に税負担の義務が課されているわけではありません。
ゆえに、消費税は「直接税」なのです。
しかも累進制度なき直接税なのです。
ご承知のとおり、直接税として代表的な税として「所得税」がありますが、所得税には累進制度があり、最低税率は5%(課税所得195万円以下)、最高税率は45%(同4000万円超)となっています。
因みに、最高税率の人であっても、課税所得195万円分は5%、195万円~220万円分は10%と、所得全体に段階的に税率が適用される仕組みになっていますので、年収4000万円だから「4000万円x45%」という税額になるわけではありません。
さて、「税の公平性の観点から…」と言うのであれば、所得195万円以下の人も、所得4000万円超の人も、一律に45%もしくは5%にするほかあるまい。
もしも一律45%にすれば、低所得の人たちはひたすら苦しみ、格差が拡大していくことになります。
一律5%にしても、むろん格差は拡大していくばかりです。
だからこそ、我が国の所得税は応能負担の累進課税になっているわけであり、累進課税制度がなければ分厚い中間所得層を構築することは不可能です。
そこで消費税ですが、消費税は前述したとおり事業者に課せられている「累進課税制度なき直接税」です。
大企業であろうが中小零細企業であろうが、あるいはその事業者が儲かっていようがなかろうが、粗利益(付加価値)に一律で10%(厳密には11分の1)の税率がかけられ納税義務が課せられているのです。
弱者保護の観点から、さすがに課税売上1000万円以下の事業者は消費税を免除されてきたわけですが、ことしの10月から、課税売上1000万円以下の事業者に対しても消費税を課しますよ、というのがインボイス制度です。
なお「べつにこれまでどおり消費税を納めなくてもいいけど、その場合、今までのように取引先から仕事をもらうことができなくなるかもね…」と財務省と政府与党は言っているわけです。
因みに輸出企業もまた消費税は免除されています。(その理由は改めて…)
粗利とは、売上から売上原価を差し引いたものであり、そこには人件費が含まれます。
ゆえに正規社員を多く抱えた事業者は、より多くの消費税を納めることになります。
なにせ粗利に一律の税が課せられるわけですから。
そのため、多くの企業は正規社員を非正規雇用に変えたり、あるいは一旦クビにして業務委託契約を結び再雇用したりして消費税の節税措置をとってきたわけです。
消費税導入以来、非正規雇用やフリーランスが増えたのはそのためです。
インボイス制度が導入されれば、そうしたフリーランスや事業契約を結ばされている社員からも、粗利に対し10%の消費税を毟り取ることになります。
だから、鬼だと言うのです。
10月にインボイス制度が導入されると、課税売上1000万円以下の事業者はまず、インボイス登録をするか否かの選択を迫られます。
登録すれば消費税を納めることとなりますが、もしも登録しなければどうなるのか?
その事業者が発行した請求書は取引先の課税仕入れから除外されることになりますので、取引先としては登録しない事業者への発注を止めるか、あるいは減らすかのどちらかになるはずです。
むろん、インボイス登録せずとも、よほど特殊な技術をもった事業者であれば、ひきつづき受注し続けることは可能でしょうけど。
そもそも消費税ほどの欠陥税制はない。
少なくとも議員バッジをつけたものは、以下のことを最低限の知識として認識しておくべきです。
1.マクロ的に付加価値の総計こそがGDP(国内総生産)である。つまりは消費税はGDPに課せられた罰金である。
2.消費税を増税すると多くの最終価格が上がる。よって人々は「消費に対する罰金が増える」ために消費を抑制する。
3.消費税は消費に掛かっている税のように見えるが、実際には「事業者の付加価値」に課せられた税である。価格交渉力がない事業者は消費税を「飲む」ことを強いられる。
4.企業は正規雇用を非正規や業務委託契約に切り替えると、人件費が課税仕入れに変わるために消費税を節税することが可能となる。
5.消費税対所得比率を見ると、高所得者ほど負担は軽くなるが、低所得者の消費性向は高いために低所得者ほど負担が重くなってしまう。
6.消費税は不況であっても容赦なく徴収される。
7.消費税の使い道は単なる国債償却(貨幣消滅)であり、「社会保障」をはじめとするあらゆる一般歳出の財源にはなっていない。行政はスペンディングファーストである。