国の官庁であれ、地方自治体であれ、行政というものは「文書」によって動いています。
職員人事、予算の使い方、各種の規制、補助金の出し方や議会がもつ権限もことごとく文書で決められています。
ゆえに、行政文書に何が書かれているかにより、私たち国民の生活、即ち「安全」と「豊かさ」は左右されるのでございます。
例えば今年度の国家予算は、昨年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(以下、骨太の方針)2022」に基づいて編成されています。
つまり、「骨太の方針2022」に何が記載されたのかが、今年以降の我が国の政治と経済に大きな影響を与え、私たちの生活に直結するわけです。
なお、先週の金曜日(6月16日)、「骨太の方針2023」が閣議決定されたのをご存知でしょうか。
今年の秋から来年3月までのあいだ、この方針に基づいて来年度(2024年度)予算案が編成されていきます。
ぜひ、ご興味のある方は、「骨太の方針2023」の全文を読んでみてほしい。
当該文書は全部で45ページにわたるものですが、その最後のページ(令和6年度予算編成に向けた考え方)には次のように書いてあります。
「令和6年度予算において、本方針、骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」
骨太方針2021に基づき…
では、「骨太の方針2021」には、何と書いてあるのか。
「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化と、債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す財政健全化目標を設定する」とあります。
要するに、2025年までにPB(基礎的財政収支)を黒字化する、と言っています。
「基礎的財政収支を黒字化する…」とは、「国債を発行せずに、税収の範囲内で行政支出(政策経費)を賄う」という意味です。
要するにPB黒字化目標とは、これ即ち「国債発行の抑制目標」のことです。
来年度の予算編成の指針となる「骨太の方針2023」もまた、これを踏襲しているわけです。
なお、この一文のあとには次のような記載があります。
「ただし、重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」
この一文は、実は昨年7月に凶弾に倒れた安倍元総理が、緊縮財政至上主義の財務省と戦った末に何とか埋め込まれたフレーズです。
重要な政策の選択肢とは、例えば防衛力の強化、防災対策、デフレ脱却、少子化対策のことです。
緊縮派はPB黒字化目標と言うけれど、これらのために財政支出を惜しんではならない、ということです。
ただ、残念ながらこの一文は、それこそ「骨抜きにされた…」としか言いようがない。
17ページにある少子化対策の財源のくだりには、次のようにあります。
「歳出改革等によって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用することによって、国民に実質的な追加負担を求めることなく 〜中略〜 その財源確保のための消費税を含めた新たな税負担は考えない」
少子化対策の財源を確保するために消費税増税を含めた新たな税負担は考えない、と言うけれど、歳出改革そのものが増税です。
それに、前述のとおりPB黒字化目標(国債発行の抑制目標)があるなかで、新たな事業費を確保するとなれば結局は増税しかないではないか。
以前のブログでも、財源確保には三つの手段(①歳出改革、②増税、③国債発行)と書きましたが、①の歳出改革は詰まるところ増税です。
なぜなら、新たな貨幣が発行されることなく行政需要が増えているわけですから、その分は間違いなく国民負担です。
さて、我が国は依然としてデフレ経済のなかにあります。
ゆえに財源確保は、新たな貨幣発行(国債発行)でなければなりません。
しかしながら、PB黒字化が「骨太の方針」という閣議決定文書に組み込まれ法的根拠をもっているかぎり、国債発行額を増やすことはできません。
国債発行(貨幣発行)できず、防衛力増強や防災対策、あるいは少子化対策を行うための財源を確保するとなれば、残された手段は増税しかないではないか。
要するに、去る6月16日の閣議決定によって「増税」が決定したのでございます。