防衛産業の弱体化は防衛力の低下

防衛産業の弱体化は防衛力の低下

「この世から武器を無くせば平和になる…」という妄想に取り憑かれている人たちが多く存在しているのは承知しているところですが、その国の防衛産業の趨勢が、その国の安全保障を左右することは紛れもない事実です。

ところが今、我が国の防衛産業は厳しい現実に直面しています。

高品質の装備品を生産できるにもかかわらず、国内需要の低迷のみならず海外輸出量の貧弱さもあり、どうしても少量生産となってコスト効率が悪化することから、企業収益は低下し、多くの国内メーカーが防衛産業から撤退しています。

言わでもがな、防衛産業の需要は政府の予算や契約に大きく依存しています。

日本の防衛産業市場は、その需要がほぼ自衛隊に限定されているために売上げが伸びにくい構造にあるのは周知のとおりです。

政府の予算削減や政策の変更が行われますと、企業は将来の市場予測が困難となりますので、それが大きな撤退要因になります。

防衛関連の事業から撤退した企業は、この20年間で100社以上に及んでおり、生産基盤の維持が困難になっている現実がそこにあります。

例えば、日本の大手企業であるコマツや住友重機械工業、ダイセル、横浜ゴム、住友電気工業といった企業が戦闘機関連製品の製造から手を引くなど、企業の撤退は増加の一途を辿っています。

防衛産業ほど裾野の広い業界はありません。

下請けの中小企業を含めますと、戦闘機に関与する企業は約1100社、戦車は約1300社、護衛艦は約8300社にも及びます。

大手メーカーが防衛産業から撤退すれば、これら下請け企業がもつ技術の継承にも大きな支障をきたします。

ご承知のとおり、我が国の防衛費はいつのころからかGDP比1%(当初はGNP比1%)の枠が嵌められていますが、近年はGDP比0.9%枠となっています。

その一方で、米国に支払う費用はそれを凌駕しており、国内の利益はほとんど見込めず、撤退が進行している状況です。

なお、防衛産業には高度な技術と研究開発のための巨額の費用が必要となるほか、新規の兵器や装備品の開発には大きなリスクが伴います。

これらの開発が成功しなかった場合や、市場の需要が予想を下回った場合、企業は大きな損失を被ることになります。

このようなリスクを避けるために、企業は防衛産業から撤退するわけです。

ふつう、まともな国家であれば、そうしたリスクの高い研究開発費の大部分を政府こそがカネを出して負担しますし、加えて政府が需要を創出することで防衛産業市場の一定規模を確保します。

その典型例が、米国です。

むろん米国の場合は、海外への輸出も多い。

日本の場合、政府がそうした役割を担ってきませんでしたし、輸出規制や技術移転の制約を設けてきたために、企業が事業の拡大や海外市場へ進出することもできませんでした。

自公政権は装備品輸出の規制を緩和するための議論をはじめるとしていましたが、その後の主だった進展はないようです。

去る7日、国会(参議院)では、防衛産業への支援を強化するための『防衛装備品生産基盤強化法』が自民、公明、立憲民主など与野党の賛成多数で可決、成立しました。

が、問題は、どれだけの予算を投じることができるかです。

その規模は、企業の研究開発リスクを政府が賄うほどの規模、あるいは防衛産業が設備投資を行うことができるだけの需要を創造(財政支出)するほどの規模が必要であり、そのうえで武器の輸出規制も緩和しなければならないでしょう。

当該法律には、装備品の輸出に取り組む企業を支援するための基金の創設が謳われ、そこに400億円程度の今年度予算が計上されていますが、むろん、これだけでは足りない。

繰り返しますが、防衛産業の弱体化は自衛隊の機能低下にも繋がるのです。

結局、この国の政治は常に財源論がネックになります。