近代資本主義社会において政府が発行する貨幣は、以下5つの前提条件の上に発行されています。
前提条件1:貨幣とは、負債の特殊な一形式である
前提条件2:中央銀行は政府の需要に対する貸出しを介して「無」から貨幣を創造する
前提条件3:民間銀行は「無」から預金通貨という貨幣を創造する
前提条件4:国内供給能力(インフレ率)の制約の範囲において政府の通貨発行量に上限はない
前提条件5:誰かの負債は、必ず誰の資産である
以上は、紛うことなき現実であり真実です。
ゆえに、防衛力を強化するための財源を確保するために、わざわざ国民から税金(貨幣)を徴収する必要はありません。
政府は「防衛力を強化する」という需要に対し、新たな貨幣を発行すればいいだけです。
因みに「財源は徴税によって確保しなければならない…」「財源は歳出改革によって捻出しなければならない…」という考え方は、資本主義以前の例えば江戸時代のように金貨や銀貨を貨幣としていた封建社会の考え方です。
徳川幕府には、負債としての貨幣を創造する能力はなかったのでございます。
さて、「防衛力の強化」には、むろん防衛産業の強化も含まれます。
そこで各メディアが一斉に報じていますが、防衛産業の基盤強化にむけ防衛装備庁は、これまで各省庁に所管がまたがっていた最先端の研究開発を今後の安全保障政策に生かすための「包括的な指針」(防衛技術指針2023)の案を策定しました。
これまで我が国では、防衛技術に関わる研究開発費を安全保障関連費として計上していませんでしたが、今後はこの指針を目安に算定する予定です。
私は原案を見ていないので、今は報道ベースで知ることしかできていませんが、とりわけ重要視されている技術分野は、無人化やサイバーなど12の技術分野らしい。
例えば、ロボットを使った遠隔操作(無人機技術)を実装化させることができれば、防衛力を高めつつ自衛官の負担を減らすことが可能となります。
その中でも早いものは、5年から10年以内の装備化を目指すという。
ただ、防衛装備庁が包括的に技術分野を示したのはいいのですが、問題は投資額です。
技術開発投資の分野は「千三つ」の世界です。
千三つとは、千個に投資しても成果がでるのは三つだけ、という意味です。
例えば、こうした技術分野で最先端をいく米国では、DARPA(国防高等研究計画局)、SBIR(中小企業技術革新開発プログラム)、NNI(国家ナノテクノロジー・イニシアティブ)などなどの機関を通じて、日本政府とは比べようもないほどの研究開発費を政府が投じています。
因みに、そうした莫大な政府投資があったればこそ、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などの巨大な情報テクノロジー産業が生まれたのです。
有名な話ですが、アップルのiPhoneで使われている主要技術のほとんどは、米国政府が巨額のカネを軍事技術の研究開発に投じた賜物です。
スティーブ・ジョブズは、ただそれらの技術を使ってiPhoneの形をデザインしただけと言ってもいいでしょう。
よく知られているように、軍事技術への開発投資は優れた民生商品の開発にも寄与するのでございます。
なお、我が国の防衛装備庁が策定した『防衛技術指針2023』は「防衛産業を担う企業に投資を促す…」としていますが、企業に投資を促すのであれば、それなりの需要を政府が創出しなければなりません。
当たり前ですが、需要がなければ企業は投資などしない。
即ち、開発のための資金や防衛産業の需要を確保するためには、政府による財政支出の拡大が必要なのです。
むろん、おカネの心配をする必要はありません。
前述のとおり、政府の需要こそが「政府の財源」を作るのですから。