経済には、実体経済と金融経済の2つがあります。
誤解を恐れず、極めて単純化して区別すると、前者は物やサービスを生産する人たちの所得の世界であり、後者は所得のうち貯蓄に回ったおカネがどのように運用されているのかの世界です。
多くの人たちがそうであるように、所得収入のすべてを消費や投資(物やサービスの購入=GDP)に使ってしまう人などいない。
所得収入の一部は、保険料、年金掛け金、銀行預金、有価証券の購入など金融資産に回っているはずです。
この金融資産に回った部分こそ、金融経済です。
実体経済と金融経済の区分けは重要で、実体経済の動向とは無関係に金融経済、例えば株価だけが上昇することなどがよくあります。
特に株価は思惑で売り買いされる世界ですので、例え実体経済がデフレであっても材料次第で株価は簡単に高騰します。
ご承知のとおり、現在のわが国の実体経済(GDP経済と言ってもいい)は、コストプッシュインフレとデフレが共存している状態にあり、実質賃金は下がり続けています。
電気料金がまた2,000円ほど値上げされますが、このままいくと秋にも更に値上げされそうで、依然として消費の冷え込みは避けられないでしょう。
一方、ここのところ東京株式市場では株価の上昇が続いています。
きのう(17日)の日経平均株価は、およそ1年8か月ぶりに3万円台を回復しています。
むろん、株価は実体経済を反映しているわけではなく、株式市場関係者たちが注目するに値する材料(情報)があったからです。
今回の場合は、①米国の金融不安の後退、②円安効果で業績を伸ばす企業が相次いだことが好材料となったようです。
①は「銀行」や「保険」など金融関連銘柄の株価を上昇させ、②は商社を含めた「卸売」、ほか「空運」「陸運」など昨年度の決算が好調だった銘柄に買い注文が入ったようです。
ただし、株価がどんなに上昇したところで、働く人たち(物やサービスを生産する人たち)の所得(=GDP)が増えるとは限りません。
そもそも株式市場の世界は相対取引ですので、仮に株価が上昇して儲けた人がいても、同時に損をしている人もいるはずです。
なにより、政治の役割は実体経済(GDP経済)を良好にすることです。
さて、株式市場が「米国の金融不安が後退した」と判断した背景には何があるのでしょうか。
今月はじめ、米国カリフォルニア州に拠点を置く地方銀行「ファーストリパブリックバンク」が経営破綻したのですが、米国金融当局が救済を買ってでる銀行を募った結果、大手銀行の「JPモルガン・チェース」が買収に踏み切ったことで大きな混乱はかろうじて免れたようです。
加えて、バイデン大統領が「すべての預金者は保護される。金融当局の措置で銀行システムの安全性と健全性は確保される」として平静を呼びかけ、事態の沈静化を図っています。
むろん、金融システムに対する不安はくすぶり続けているものの、一旦は落ち着きを取り戻したということなのでしょうか。
なお、金融不安を後退させたもう一つの材料が、米国政府の債務上限問題です。
以前のブログでも申し上げましたとおり、これほどの茶番はないのですが、例年この時期になると米国では「債務上限がぁ〜」と騒がれています。
この問題が6月1日までに決着しないと、米国政府は法律的にデフォルトに陥るわけですが、明日からはじまる広島サミットに向かうバイデン大統領が「6月1日までに合意できそう…」と発言したことも金融不安を後退させた一因かと思われます。
ウォール街などの大資本家たちは、乱高下するマーケットの間隙をついて利益を確保することを得意としています。
彼らは株式市場が下落しても儲けることができます。
だからこそ彼らは常に材料を求めます。
法律をつくってまで米国政府に債務上限を設定しているのも、こうした材料づくりに他ならない。
むろん、私の推測です。