兵庫県伊丹市を流れる天神川の堤防が、7日から降り続いた大雨の影響により決壊しました。
所管官庁である兵庫県によりますと、天神川の堤防が壊れた場所では、川底を強化する工事のために土嚢(どのう)が積まれ、川幅が通常の半分ほどまで狭められていたとのことです。
当局は「過去の雨量を調べたうえで川幅を狭めていたが、想定以上の雨が降って川が増水し、堤防が決壊したとみられる」としています。
報道のとおり、兵庫県伊丹市を流れる天神川は、川底が周辺の地面の高さよりも高い位置にある、いわゆる「天井川(てんじょうがわ)」です。
流れてくる土砂の多い川では、堤防をつくり流路を固定することで決壊を防ぐわけですが、どうしてもまた土砂が溜まり川底が上がります。
溜まる土砂に負けないように更に堤防を高くするのだが、どうしてもまた土砂が溜まる。
これを繰り返すうちに、ついには周りの住宅地よりも川の位置が高くなってしまう。
これが天井川です。
このような川が全国で217か所もあるらしい。
因みに、全国217か所のうち、京都府(23か所)と滋賀県(81か所)だけで100か所を超えるなど、とりわけ関西に集中しています。
むろん、兵庫県も多いのですが、それにはそれなりの理由があります。
まず、関西と関東では地理的に大きな違いがあります。
例えば兵庫には六甲山がありますが、滋賀や京都には市街地の直ぐそばに山、湖、海がある地域が多く、そこまでの距離が関東平野や九州地方に比べても非常に近いわけです。
そうした場所に都市整備する過程で、天井川が形成されてきたのだと思います。
兵庫県芦屋市では、市域を流れる芦屋川の下にJR線が走っていますが、このような場所で堤防がいったん決壊すれば、その被害が甚大になるのは目に見えています。
さて、このような天井川をたくさん作ってしまった最大の要因は、なによりも「治水=堤防」という思想に陥り河川整備を行ってきたことの結果であると推察します。
堤防を高くしては土砂を溜め、土砂を溜めては堤防を高くしてきたわけですから。
いつも言うように、治水施設のなかで一番あてにならないのが堤防です。
例えば、私の住む川崎市と東京都の間には多摩川が流れていますが、このような都市部を貫く大流域においては、堤防を強化するのではなく、できうるかぎり堤防に負荷をかけないように洪水の水位を1センチでも2センチでも下げることが必要なのでございます。
即ち、治水の原則は、各種治水施設への負荷を軽減することに尽きます。
例えば、ダム、遊水地、貯水施設、河川の浚渫、堤防などなど、これらの多様な治水施設や治水施策を組み合わせることにより、各治水施設の洪水負荷を軽減するわけです。
これこそが「複数の施設が一つのチームとなり街を守る」というチーム治水の洪水防御システムなのでございます。
わが国の国土環境からも、河川はどこも川幅が狭く、勾配がきつく急流です。
上記のイメージ図のように、一つの「治水施設」だけに負荷をかけてしまうことが、いかに危険かを認識すべきです。
今回、伊丹市の天神川(天井川)の堤防決壊は、堤防という一つの治水施設に負荷をかけてしまったことによる人災です。
決して、大雨だけのせいではないと思います。