軍事面における安全保障を考えるうえで、いかに自前の武器を確保できるかどうかが極めて重要です。
ウクライナのように、欧米が武器を供与してくれなければ国を守ることができないようでは主権国家とは言えない。
だからこそ、自国の防衛産業をいかに育てていくかは国家の安全保障問題に大きく関わる問題なのでございます。
といって、すべての装備品を自国の防衛産業だけで完結できる国などありません。
米国だって不可能でしょう。
ゆえに、食料安全保障と同じように自給率を高めることが必要です。
ところが、我が国の防衛産業は顧客が自衛隊しかなく、それでいて緊縮財務省がネックとなり防衛費は常に頭打ちであったがゆえに産業としてジリ貧状態に陥っています。
輸送、掃海、警戒、監視、救難など殺傷力のない5つの用途に限定されれば輸出できるとした『防衛装備移転三原則』がつくられたものの、戦闘機、戦車、機関銃、ミサイルなど殺傷力のある装備品については原則として輸出が禁止(共同開発国を除く)されており、依然として武器輸出は厳しく制限されています。
結果、『防衛装備品移転三原則』以降に輸出した完成装備品は、三菱電機が開発した警戒用レーダーをフィリピンに輸出した1件のみです。
このままでは、現在、日英伊で共同開発している次期戦闘機の輸出にも制約がかかり、共同開発の協力に支障がでかねないとして、『防衛装備品移転三原則』の制限を緩和する話も浮上しているところです。
今後は、殺傷能力のある装備品の輸出を解禁するかどうかが焦点となっていくことでしょう。
自民党内には「今月19日からはじまるG7広島サミットまでに方向性を示すべきだ」という意見もあるらしいのですが、例によって公明党が難色を示しています。
難色を示すのはご勝手だが、この種の人たちは、我が国の防衛産業の現状を理解した上で難色を示しておられるのでしょうか。
例えば、海上自衛隊が保有している救難飛行艇「US−2」(新明和工業製)は、10年ほど前に太平洋で遭難した辛坊治郎さんを救助したことで一躍話題となった飛行艇ですが、顧客が海上自衛隊しかいない現状では生産を続けることが極めて難しいという。
新明和工業によれば、それまで1500社あったUS-2への納入業者(下請け会社)が、この10年程度で約100社も減少してしまったらしい。
その理由は、むろん厳しい輸出規制と、財務省の緊縮主義(防衛予算が頭打ち)により需要そのものが限定されていることにあります。
また、受注頻度の少なさが生産数の少なさをもたらし、結果、US-2の機体価格も約90億円であったものが、現在では約170億円にまで引き上がっています。
それでやっとのこと、赤字になるかならないかほどの採算性を確保しているようです。
これでは、防衛産業から撤退する企業が増えるのも宜なるかなです。
2019年にはコマツ製作所が軽装甲気動車から撤退し、2021年には三井E&S造船が艦艇、住友重機械工業が機関銃から、そして2022年には横河電機が航空機用の計器、KYBが航空機用の油圧機器から撤退しています。
さすがに日本政府も、この危機的状況を受けて、今年度から企業に対し最大15%の利益がでるように調達価格を調整するようにしています。
そんな規模では焼け石に水ですが…
日本は今後5年間で43兆円の防衛予算を確保しますが、やはり防衛装備品の輸出を拡大していくことが必要です。
相手国を日本の防衛装備品に依存させることもまた、我が国の安全保障につながりますので。
先日、千葉県の幕張メッセで国際的な武器の見本市「DSEI JAPAN」が4日間にわたり開催されました。
日本で開かれたのは4年ぶりですが、前回よりも5割多い250社以上が参加しました。
日本からも80社以上が参加したとのことですから、防衛費の大幅増を受け、日本の防衛産業も日本市場に大きな期待をもっているのでしょう。
一方、会場の外では、例によって武器の輸出(製造)に反対する人たちが抗議活動を行っていたのは誠に残念です。
「戦争は人を殺すから反対…」と騒いでいましたが、戦争を望んでいる日本国民などいないはずです。
とはいえ、他国から侵略攻撃を受けたら防戦(戦争)するほかあるまい。
防衛装備品にしても軍隊にしても、これらは紛争や戦争の抑止力として、あるいは外交の背景として存在しています。
おそらく抗議活動している人たちは知らないでしょうが、例えば私たちが普段利用している「スマホ」「GPS」「インターネット」は、これらは全て軍事技術の賜物です。
電子レンジだって、ティッシュペーパーだってそうです。
これらはすべて軍事技術が民生転用されたものです。
彼ら彼女らが、スマホ、電子レンジ、ティッシュペーパーにも依存しない生活をされているのなら多少の説得力もありますが…