疑米論

疑米論

中国による台湾への圧力が高まっているなか、台湾では「有事の際に米国がどこまで台湾防衛に乗り出すのか…」についての懸念が出ているらしい。

習近平国家主席は、台湾統一に強い意欲を持っているのは周知の事実です。

それが建国以来の悲願である以上、中国共産党としては武力行使も辞さないという構えです。

もしも台湾を手中にできれば、第一列島線から米軍を排除でき、中国海軍は自由に太平洋に出ていくことが可能となります。

また、世界の半導体の65%、最新鋭のものであれば90%が台湾で生産されていることから、中国が台湾を飲み込むことの意味は実に大きい。

こうしたなか台湾では、有事の際、本当に米国が台湾防衛に乗り出すかどうかを疑う「疑米論」が出ているという。

そもそも米国の歴代政権は、中国が台湾を攻撃した場合の態度を予め明確にしない、いわゆる「あいまい戦略」を採ってきました。

「軍事的に関与するかもしれない…」と思わせることで中国を牽制しつつ、「関与しないかもしれない…」と含みを持たせることで台湾の一方的な独立の動きを抑える狙いもあっての戦略だったと思われます。

ただ、歴史的にみますと、米国はいざとなると平然と同盟勢力を裏切る国です。

古くは蒋介石を見捨て、南ベトナムも見捨てた。

一昨年にはアフガニスタンからも無責任に撤退したし、今回のウクライナ危機においてもそうです。

NATOの東方拡大を仕掛けプーチン大統領に要らぬ刺激を与えておきながら、いざウクライナが侵攻されても、ただ兵器を供与し経済制裁するだけです。

このような米国の姿勢をみていれば、「疑米論」が出るのも不思議ではないでしょう。

この状況をうまく利用しようとしているのが中国です。

共産党系メディアなどは「有事が起きてもアメリカ軍は助けに来ない」などと盛んに伝えています。

むろん、その狙いは米国と台湾の連携に楔を打つことにあるわけですが、相手を撹乱・自滅させ、息の長い作戦で自軍を優勢にしていくのが歴史的にも彼らの常套手段です。

中国の台湾侵攻の戦術的基礎となるものは、①封(海軍による海上封鎖)、②打(空軍、ロケット軍によるミサイル攻撃)、③登(海兵隊や陸軍による上陸作戦)ですが、第一次(1954〜5年)、第二次(1958年)、第三次(1995〜6年)、いずれの台湾危機においても中国はそれを満足に実行することができませんでした。

当時に比べて中国の軍事力は飛躍的に拡張されていますので、「第四次危機が近いのでは…」と懸念されているわけです。

とはいえ、今すぐ戦争がはじまる可能性は極めて低いのではないでしょうか。

台湾海峡は幅が広く浅く、海流も早く、気象も不順で、上陸に適した海岸も少ない。

中国には海兵隊(約4万)も不十分で陸軍も含む何十万もの人員とその補給品を運び揚陸する船舶も今はまだ足りないらしい。

習近平政権が余程に行き詰まらないかぎり、今すぐ戦火が上がる可能性は低い。

そのことを中国側も充分に認識しているからこそ、今後も彼らは「疑米論」をうまく活用していくものと推察します。