欧州では、世界中から批判され続けてきた「石炭火力発電」が再び注目されているらしい。
とりわけドイツなどは、石炭火力の段階的廃止完了時期を2038年から2030年に前倒しする計画を発表し、「2050年までに電力の80%を再生可能エネルギーで賄う」との政策を掲げ、先進国で唯一「脱石炭」法案を可決したほどの国ですが、今や掌返し状態のようです。
わが国は一足飛びに石炭火力をゼロにするという理想論を掲げることなく現実的な路線を歩んでいますが、「脱炭素に関して日本は消極的だ…」と批判してきた欧州が現在ピンチに立たされています。
直接的原因は、やはりウクライナ侵攻によるエネルギー問題。
ロシアは、EU各国の需要家に対して、ロシア最大の天然ガス国営企業であるガスプロムの金融子会社ガスプロムバンクに口座を開設し、ルーブル建てで決済するよう求めました。
欧州は反発したのですが、その結果、ロシアはブルガリアとポーランドへの天然ガスの供給を止め、オランダとデンマークに対しても同様の措置をとっています。
ロシア産の天然ガスへの依存度が高いドイツとイタリアのエネルギー企業は、ガスプロムバンクに口座を開設し、ロシア産天然ガスの輸入を続けていたのですが、今や状況がかわりガスプロムはドイツに対してもガスの供給を削減するようになっているようです。
例えば、バルト海経由でロシアからドイツに天然ガスを輸送するガスパイプライン「ノルドストリーム1」の供給を60%も削減しているらしい。
この対抗措置ともいえる状況にドイツ国内はパニック状態にあるのだとか。
ドイツ最大のロシア産天然ガス輸入業者であるウニパーも、ロシアからの供給が契約量より25%減少していると発表しています。
ロシアからの天然ガスの供給が大幅に減ったため、ドイツでは電気・ガスの値上げが止まらない状況にあり、料金はわずか2ヶ月で2倍に上昇したという。
2030年に石炭火力廃止を掲げていたショルツ政権ですが、さすがに政策転換を迫られ、安い石炭火力に頼らざるを得なくなったわけです。
日本貿易振興機構によれば、ドイツの褐炭・石炭火力による発電量は、17.2%増の826億kWhと大きく増加し、全体の31.4%を占め、ひきつづき最も重要な電源となっているらしい。
なお、当然のことながら天然ガスによる発電量の構成比は大きく減少したとのこと。
石炭は他の化石燃料に比べ、賦存地域、即ち天然資源が理論上存在していると算定される地域が、欧州・ユーラシア、北米、アジア大洋州など地理的にバランスよく分散されているため供給の安定性が高いエネルギーとなっています。
供給安定性が高いがゆえに価格帯もある程度一定であるというわけです。
石油や天然ガスに比べて地域による偏在が少ないことに加え、地政学的リスクの高い中東に依存する必要がないことも大いなる利点です。
このように石炭火力発電を増設、稼働数を増やすことのメリットは多々ありますが、むろん「脱炭素化」とは矛盾する行為となります。
背に腹は代えられないということか。
そもそも「一足飛び石炭火力をゼロにする…」という理想論を掲げたこと自体が大きな誤りだったのだと思います。