川崎市人事委員会委員長の大英断

川崎市人事委員会委員長の大英断

きのう、川崎市議会の一般質問に立ちました。

質問項目は3つ。

1.川崎市人事委員会の情報公開のあり方について
2.新型コロナウイルスの変異株対策について
3.不確実性時代の行政について

とりわけ、ビックニュースとなったのは1項目目の「川崎市人事委員会の情報公開のあり方」についてです。

今朝の読売新聞(川崎版)にも掲載されております。

結論から言うと、これまで川崎市人事委員会は法的根拠のない理由を盾にして、当該委員会の審査関係書類の一切を非開示としてきたのですが、昨日の質疑によって「今後は判例や条例に基づいてちゃんと公開する(過去の分についても公開する)」ということになりました。

その上で、以下補足します。

質問の発端となったのは次の事案からです。

川崎市立看護短大に勤務する准教授が、実際には出張に行っていないにもかかわらず、出張に行った旨の虚偽の復命報告書を大学に提出し、いわゆる「カラ出張」を行いました。

さらにあろうことか、当該准教授は出張を行ったかのように隠蔽工作まで行いました。

この不祥事により、当該准教授は平成31年3月28日付けで停職3か月の懲戒処分となったのですが、その後、令和元年6月27日、本市人事委員会委員長に対し、当該懲戒処分の取消しを求めて審査請求を行いました。

「停職3ヶ月でも軽い処分ではないのか」と思うのに、なんと当該准教授は処分が重すぎるとして不服申立てをしたわけです。

当該大学は短期大学ですが、現在、4年制大学に移行すべく準備を行っています。

こうした状況においてこのような不祥事が発生した事実は、学生やその保護者たちへの不信を招き、大学の権威を失墜させ、4年制大学への移行や、その後の大学の運営にも悪影響を及ぼしかねない重大事です。

さらに、当該大学は市立大学であり、当該准教授は公務員です。

したがって、当該不祥事について審査請求がなされたことや、これに対する裁決の内容は、川崎市の公務員が公正・公平な職務の遂行を行っているか否かに関わる情報であって、当該大学に通う学生やその保護者だけでなく、広く川崎市民にとって重大な関心事でもあります。

ゆえに私は、本市人事委員会に対し、市立看護短大の准教授の不祥事に係る審査請求事案について、人事委員会の審査関係書類を開示するように求めてたのですが、本市人事委員会は川崎市情報公開条例等の規定を根拠に一切の情報開示を拒否してきました。

しかしながら、そのような取扱いは平成13年に制定された川崎市情報公開条例、及び平成15年の最高裁判所判例、あるいはその趣旨に違反するものでした。

だからこそ私は、昨日の質疑を通じて、本市人事委員会が法律に則った運営が為されていないことを法的根拠をもって明らかにしようと思ったわけです。

詳細に調査したところ、本市人事委員会が審査関係書類の一切すべてを非開示としてきた理由には、その法的根拠が全く存在していないことが判明しました。

要するに、非開示とする理由は、判例や法律や条例に基づくものではなく、単なる川崎市人事委員会事務局の私的見解だったのです。

もっといえば、事務局職員による私的作文と言っていい。

川崎市情報公開条例では、開示請求があった場合には実施機関(この場合、川崎市人事委員会)は公務員のプライバシーに係る部分を除いて当該文書を開示しなければならないと規定されています。

加えて、当該情報が職務の遂行に係る情報であるときは、当該公務員の職、氏名、職務遂行の内容についてはプラバシーには含まれないとしています。

しかも、当該条例の規定を裏押しする最高裁判例があります。

それが、最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決です。

この判例は、かつての大阪市公文書公開条例(現在の大阪市情報公開条例)において、公務員の職務の遂行に関する情報が、個人情報として非公開情報にあたるかどうかが問題となった事案です。

最高裁は、公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の社会的活動としての側面を有するとしつつ、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除いて、条例のいう『個人に関する情報』であるという理由で非公開情報にあたるとはいえないとしました。

これは決定的かつ重要な判例かと思われます。

そして最高裁は、その理由として、当該大阪市条例が、個人情報の保護について配慮をしつつも、大阪市の市政に関する情報を広く市民に公開することを目的としていることを重視し、公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書をすべて非公開とすることができるものとしていると解すことはできないとも述べています。

即ち、この判例は、市のアカウンタビリティ、つまり説明責任を根拠として結論を導いています。

大阪市の当該条例が目的とするところは、わが川崎市においても同様です。

川崎市情報公開条例の第1条には、「市の管理する情報の一層の公開を図り、市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにし、市政運営の透明性の向上及び市民の信頼と参加の下にある公正かつ民主的な市政の発展に資することを目的とする」と定め、市の市民に対する説明責任を明記しています。

したがって、平成15年判例の判示あるいはその趣旨は、わが川崎市における情報公開にもその射程が及ぶものと考えます。

以上の理由から、私はきのうの一般質問において本市人委員会に対し、判例や条例に基づいて速やかに情報を開示するように求めたわけです。

その結果、魚津利興・人事委員会委員長は、それを承諾してくださったわけです。

事務方は法的根拠がないにも関わらず陰に陽に悪質な屁理屈をこねて情報開示を拒んできましたが、まこと人事委員会委員長としての大英断だったと思います。

ぜひとも魚津委員長におかれては、今後とも本市人事委員会事務局改革の先頭に立って活躍して頂きたい思います。