本末転倒! EV普及とCO2増加

本末転倒! EV普及とCO2増加

温室効果ガスの排出削減を目標に、ガソリンエンジン車から電気自動車へ転換する動きを「EVシフト」と呼びます。

もっか自動車業界ではEVシフトが格段のスピードで進んでいるのは周知のとおりです。

とりわけ中国は世界で最も電気自動車の普及率が高まっているのですが、既にEV社会が抱える深刻な課題に直面しています。

中国などEV普及が進む、いわゆるEV先進国で露呈している問題は、それ以外の国でも同様の課題となることは間違いありません。

よって、わが国にとっても中国が抱える問題は対岸の火事として見過ごすことはできないのでございます。

中国政府は環境保護政策の一環として、2012年にEVの普及促進策を打ち出し、EV関連企業の育成と充電インフラの整備を進めています。

また、EV購入に対する補助金制度も導入され、消費者のEV購入意欲を高めることに成功したことから、一気にEVが普及拡大していきました。

2020年末時点で約4500万台に達し、2025年には保有台数が1億台を超えることが予測されています。

特に2020年は政府のEV補助金の引き上げもあってEVの販売台数が飛躍的に伸びましたが、今後も着実に増加していくことでしょう。

中国におけるEV社会の問題の一つはEV充電スタンドでの渋滞です。

EV充電スタンドでの待ち時間が長くなり、「最長で24時間待った…」という報告さえあります。

むろんこれは、中国でのEV普及が急速に進み、EV充電スタンドの整備が追いつかなくなっていることが原因です。

といって、中共政府がEV充電スタンドの整備を怠ってきたわけではありません。

EV充電スタンドを急速に増やしているのですが、そのスピードがEVが普及するスピードに追いつかないのでございます。

中共政府は、EV充電スタンドの更なる増設や充電スタンドの管理方法の見直しを進めるなど、問題解決に向けた取り組みを行っていますが、残念ながら劇的な効果を出すには至っていません。

そもそもEVは充電に長い時間を必要とします。

ガソリン車は一般的に約5分で給油を終わらせることができますが、EVは一晩かけて充電、あるいは急速充電スタンドを用いてもかなりの時間を要します。

例えば、日産リーフのバッテリーを50%まで充電するのに、3kW普通充電で10時間、6kW普通充電でも5時間かかります。

充電スタンドを用いた急速充電の場合、50kWと出力が大きいために充電にかかる時間はかなり短縮されますが、それでも80%まで充電するのに最低でも30分は必要となります。

そこで自動車メーカーでは、バッテリーをカートリッジタイプにし、簡単に取り替えてすぐに走り出せるようにしようという動きもあるらしいのですが、未だ実用化には至っていません。

このように、充電待ち渋滞の本質には、EVの充電の弱点が露呈しています。

さて、ここからが更に重大な問題なのですが、充電スタンドの整備が追いつかない理由の一つに「電力不足」があります。

充電スタンドを設置するということは、当然のことながら充電するための電力を供給する必要がありますが、中国ではその電力を確保することが非常に難しくなっているらしい。

彼の国では急速な経済発展とともに電力消費が伸び続けており、それをいかに賄っていくかはインフラ政策の最重要課題なのですが、なんと発電量に占める火力発電の割合は2018年で6割を占めています。

ご承知のとおり、中共政府は自国で産出される石炭資源を活用して発電量を増強してきました。

石炭を燃やして発電する火力発電は、大量の二酸化炭素(CO2)を排出します。

中国で主流の旧式の火力発電施設の熱効率は最新の設備と比べるとかなり見劣りし、発電効率も悪く、より多くの二酸化炭素を排出してしまいます。

なので中共政府は、中長期的に石炭比率を低下させ環境問題を解決することを明言してきましたが、エネルギー転換などそう簡単にできるものではありません。

そもそもEVは温室効果ガスの排出削減という大目標のもとで普及が進められてきたはずです。

しかしながら、EVの普及に伴って電力消費量が増加すると、発電時の二酸化炭素の排出が増えてしまい、本末転倒になることが確実視されているのでございます。

むろん当該問題は中国だけでなく、ほかの国でも十分に考えられる問題です。

トヨタ自動車の豊田章男(前社長)は、2019年の段階で「EVによって電力需要が増加し、電力インフラが整備されていない地域で、充電の渋滞が起こる可能性がある…」ことを既に指摘されておられました。

まさに中国での事態を予見していたわけです。

EVに特化することなく、水素やハイブリッド、あるいは現在主流の内燃機関車にも注力していくという、トヨタ自動車の「全方位戦略」は間違っていなかったと思います。