消費者物価上昇に欧米との差

消費者物価上昇に欧米との差

上の図は、消費者物価の国際比較です。

わが国では、一部の分野でコストプッシュ・インフレに見舞われていますが、欧米に比べた場合、さほどの上昇ではないことがわかります。

因みに、誤解している人が大勢おられますが、インフレ率が上昇すること事態は決して悪いことではありません。

現在のインフレ問題は、インフレ率が上がっているにもかかわらず、国民の所得(賃金)が上昇しないことです。

本来、マイルドにインフレ率が上昇し、それ以上に所得(賃金)が上昇していく経済のことを「成長経済」と言います。

かつて、日本の高度経済成長に大きな貢献を果たした下村治は、次のように述べています。

「企業物価は下がったほうがいいが、消費者物価は上昇したほうがいい…」と。

なるほど企業物価が低いことは国内企業の生産性の高さを示し、消費者物価が高いことは人々の購買力が高まっていることを示すことになります。

また、企業物価は、例え高くとも生産性向上のための投資によって引き下げることができます。

つまり、企業は合理化を進めることで利益を拡大することができ、従業員らの給与水準を引き上げることができるわけです。

人々の給与水準が上がれば消費は拡大するので、消費者物価は上昇することになります。

この場合のインフレは、むろん「デマンドプル・インフレ」のことです。

一方、現在の日本は、上昇しているとはいえ欧米に比べ消費者物価は低いものの、企業物価は欧米並みに上昇しています。

即ち、企業物価と消費者物価の上昇率には乖離があり、下村治の理想とは真逆の状態にあるわけです。

このような状況下においては、企業は賃金上昇の原資となる利益を確保することができませんし、コストプッシュ型でインフレ率が上昇してしまうのも無理はありません。

ゆえに、いま求められているのは、コストプッシュ・インフレを抑制するための、とりわけ企業物価は縮小するための対策となります。

要するに「物価」と言っても企業物価と消費者物価の違いがあり、「インフレ」と言ってもデマンドプル型とコストプッシュ型の違いがあるのでございます。

ところが世の中には、これらの違いを明確にしないまま、ことさらインフレ問題を煽り続ける人たちがいます。

彼ら彼女らは口を揃えて「コロナ禍とはいえ、政府が予算をバラ撒きすぎたから物価が上昇したぁ〜」と言う。

断っておきますが、おカネを刷ったからといって物価が上昇するわけではありません。

よく言われているにように、ヘリコプターで空からおカネ(紙幣)をバラ撒いたところで、必ずしも物価が上昇するわけではありません。

実需が供給能力(ヒト・モノ・技術)の賦存量を上回ったとき、物価は上昇するのでございます。

そして現今の日本は、実需は低迷しているにも変わらず、食料やエネルギー部門の生産に関わる原材料費が高騰しているために物価が上昇しています。

くどいようですが、これがコストプッシュ・インフレです。

今はただただ、コストプッシュ・インフレをデマンドプル・インフレに転換するための各種投資と消費の拡大が必要です。

その役割のきっかけをつくるのは、むろん政府による財政政策です。

少なくとも、コストプッシュ・インフレを理由に財政支出の拡大に異を唱えるのはやめてほしい。