きのう夕方、北朝鮮から発射されたミサイルが日本海(日本のEEZ内)にロフテッド軌道で落下しました。
発射されたミサイルはICBM(大陸間弾道弾)級だったようです。
燃料が液体燃料だったのか、それとも固体燃料なのかはわかりません。
これまでに発射されたICBMには3つのタイプ(火星14、火星15、火星17)があるのですが、いずれも液体燃料が使用されています。
これは2021年1月の朝鮮労働党大会で示された『国防5カ年計画』に即したものです。
と同時に当該計画では、海と陸の両方から発射できる固体燃料のICBMの完成を近く公表する、とされていました。
きのうのICBMがそれだったのかどうか、現段階においては私にはわかりません。
最近、発射実験された新型の短距離弾道ミサイルについては、すでに固体燃料が使用されていることは知っています。
ただ、金与正氏(金正恩総書記の妹)が最近、新型の固体燃料式ICBM発射実験については、これまでのICBM実験のようにロフテッド軌道で日本海に落下させるのではなく、「アメリカに向けたフルレンジ軌道で実施される」と警告しておりましたので、ひょっとすると液体燃料式だったのかもしれません。
液体燃料か、個体燃料か、この違いは極めて重要です。
固形燃料式の場合、液体燃料式に比べて発射準備が容易となります。
発射準備が容易であるということは、相手国に発射の兆候が探知され難く、相手国からの先制攻撃により発射を阻止されるリスクを低減させることができますので、北朝鮮にとっては極めて重要な軍事資産となります。
といっても、日本に向けてICBMを打ち込んでくることはありません。
ICBMはその名のとおり大陸間弾道弾ですので、射程距離の近い日本に向けて発射することはなく、日本の国土に向けて発射するとすればノドン級です。
それにつけても、北朝鮮はこの1年で100回近くの、かつてないペースでミサイル発射実験を繰り返しています。
専門家によると、そのいくつかは見事な飛距離と潜在能力を持つミサイル実験だったといいます。
にもかかわらず日本国内には、なんとなく「ミサイル慣れ…」のような空気が醸成されつつあるところに危機を感じます。
日本だけではなく、米国もそうです。
4年前に行われた金正恩総書記とトランプ米大統領(当時)の首脳会談は失敗に終わりましたが、その後、バイデン政権は北朝鮮の核開発を阻止するような新たな提案をしていません。
ウクライナ戦争など、別の差し迫った懸案に気を奪われすぎているのでしょうが、北朝鮮は既にMIRV(多目標弾頭)技術をもっているのは周知のとおりです。
これを使うと米国のミサイル防衛システムの機能を抑え込むことが可能で、最近発射実験が行われた火星17は多弾頭を搭載できるように設計されているはずで、理論上ではマンハッタンとワシントンを同時に攻撃することができます。
米国もある意味で、北朝鮮の脅しに慣れてしまっているのではないでしょうか。
金王朝の大量破壊兵器開発計画は、明らかに危機的ペースで拡大しています。
地域的な戦略バランスが北朝鮮にとって有利になっていけばいくほどに、金正恩総書記の判断ミスが戦争につながってしまうリスクも高まっていくものと考えます。
わが国及び同盟諸国は軍事的な存在・抑止と即応・対処の能力を高め、それを背景にした外交戦略を構築することで北朝鮮リスクをできうる限り軽減してもらいたい。