2021年4月に日銀が公表した『経済・物価情勢の展望』(展望リポート)では、コロナ禍の行動制限の影響により消費ではなく貯蓄に向かう金額(家計のコロナ貯蓄)が、2021年末時点で50兆円に及ぶであろう、と推計されていました。
日銀は「感染症が収束に向かう過程でその一部が取り崩され個人消費を押し上げる可能性がある」と分析していましたが、大和総研の試算によると2022年9月末時点で家計のコロナ貯蓄は62兆円にまで拡大しているとされています。
大和総研によると、欧米ではコロナ貯蓄を取り崩して消費を回復しているとのことですが、欧米では日本とは比較にならない規模での財政政策によって国民に対する経済的支援を行っています。
例えば米国では、バイデン政権による救済計画によって約200兆円規模の財政支出の拡大が行われたのは周知のとおりです。
一方、欧州においても英国政府ほか、あの緊縮の権化たるドイツ政府でさえも財政支出の拡大を惜しみませんでした。
とりわけ、バイデン米政権の救済計画では、国民一人あたり約200万円の給付金が配られたといいます。
それだけもらっているわけですから、コロナ禍による行動制限が緩和されれば、そりゃぁ貯蓄が消費に向かうのも当然でしょう。
日本政府の「国民一人あたり10万円…」とは規模が違うのです。
そもそもわが国は欧米とは異なり、コロナに関係なくデフレ経済なのですから、家計が貯蓄を取り崩してまで消費を拡大するような経済情勢ではありません。
ゆえに、コロナ貯蓄などほとんど関係なく、もともと家計消費は弱いのです。
日本経済新聞は今朝の朝刊のトップ記事で、まるで貯蓄志向の国民(家計)の側に問題があるかのような記事を書いていますが、デフレ期に支出を拡大できる経済主体は政府以外にはありません。
通貨価値が日に日に上昇していくデフレ局面において、家計に「貯蓄を取り崩してまで消費しろ…」と言う方がどうかしています。
家計や企業が進んで支出を拡大するようになるのは、通貨価値が日に日に下落していくインフレ局面になったときです。
今日のように、デフレと輸入物価高騰によるコストプッシュ型インフレが併存している日本経済においては、政府による財政支出の拡大が何よりも求められます。
このように言うと「そうは言っても政府も借金で大変じゃないか…」という批判が上がりそうですが、日本政府に深刻な財政問題などありません。
何度でも言いますが、自国通貨建てで国債を発行できる政府の通貨発行量にインフレ率以外の上限はないのですから。
これもそもそも論ですが、現在の日本の家計が現預金(貯蓄)を増やすことができたのは、政府や企業が借金をして新たな通貨を発行してきてくれたからです。
上のグラフは、政府と企業の借入こそが、民間部門(家計・企業)の現預金を創出していることを証明しています。
誰かの支出は必ず他の誰かの収入であり、誰かの負債は必ず他の誰かの資産なのでございます。
家計消費を増やさせたいのであれば、まずは財政支出を拡大させること(新たな通貨を発行すること)で、コストプッシュ型インフレとデフレを克服しなければなりません。
日本経済新聞は「コロナ貯蓄、使わぬ日本」と記事にしていますが、私に言わせれば「通貨発行権、使わぬ政府」です。