政府(経済産業省)は『半導体・デジタル産業戦略』を示し、その報告書の中で日本の半導体産業の復活について「国家事業として主体的に進めることが必要」と明記しています。
即ち、半導体の国内での製造基盤確保にむけて、国家事業として強烈に推進していくとの強い意思を表明したわけです。
半導体は今や国民生活のみならず、あらゆるビジネスに必要不可欠なデバイスとなっています。
もしも半導体が供給遮断になった場合には、国民生活の安定が損なわれるのはもちろんのこと、不確実性がニューノーマルとなりつつあるこれからの時代を乗り切ることは困難です。
即ち、おコメの国内生産が食料安全保障を支えているように、半導体もまた国内での生産が経済安全保障に直結しています。
しかしながら、かつて1980年代後半には世界シェアの50%以上を占めていた日本の半導体産業は今や2019年時点で10%にまで低下しています。
なかんずく我が国においてはCPUなどロジック半導体がミッシング・ピース(足りない要素)となっており、今やロジック半導体は世界3強が1強へと変わるほどに既に技術格差が拡大しはじめていることから、今から日本企業だけで独自に追いつける状況にはないとのことです。
なので政府は経済安全保障の観点から、やむを得ず外資の協力を得て国内での半導体産業の復活を目指しているわけです。
直近のニュースによれば、半導体受託生産の世界最大手のTSMC(台湾)が、日本ではじめてとなる半導体工場を熊本県に建設する検討に入りました。
半導体の性能を示すのは回路の線幅で、その線幅が狭いほどに半導体の性能は高いわけですが、世界の最先端はTSMCが実用化している5ナノです。
そしてTSMCは年内には2ナノを試験ラインに乗せるとしています。
ただし今回、TSMCが熊本につくる工場で生産される半導体は16ナノ、28ナノであり、最先端に比べるとかなりの差がありますが、このクラスの半導体は自動車向けの半導体として使用されるため、九州には自動車工場が多いことからTSMCは熊本を選定したものと推察します。
なお熊本には、ソニーのテクノロジーセンターがあるので、TSMCとしてはこれらの需要を狙っての進出かと思われます。
また、米国の半導体大手のマイクロン・テクノロジーのサンジェイ・メロートラCEOも、先端メモリー開発で対日連携することを既に明らかにしています。
とにもかくにも日本への半導体投資熱は高まっています。
しかしながら、各国・地域の半導体関連支援額を比較すると、米国は5.7兆円、EUは17.5兆円、中国は地方政府の分まで含めると10兆円であるのに対し、現在日本で決まっているのはたった2,000億円が計上されているのみで明らかに後塵を拝しています。
先日、経産省の商務情報政策局長が、次にように語っていました。
「政府は成長戦略において『他国に匹敵する取り組み』という言葉を使っている。なので財政措置を含めて様々な手段を考え、大規模な民間投資を可能にする環境をつくりあげていきたい」と。
とはいえ、ご承知のとおり政府はPB黒字化目標を未だに維持しており、これがあるかぎり他国に匹敵する財政措置を確保するのは極めて困難です。
一方、川崎市には、新川崎にあるNANOBIC(ナノビック)にナノレベルでの研究を進める研究開発機関が集積しており、また市内には半導体素材関連の企業もいくつか存在しています。
今回、国が示した『半導体戦略』のなかで、川崎市としてどのような役割を果たしていくのか、あるいはどのような役割を果たすことができるのか、来週予定されている市議会(一般質問)にて本市当局に問いただしてみたいと思います。