貨幣供給(財源)に限りなし

貨幣供給(財源)に限りなし

米フォーブス誌によれば、2020年の世界のビリオネア(10億ドル以上の資産家)の人数は2,668人で、その総資産額は12.7兆ドルにまで及んでいるとのことです。

因みに1位は、テスラやスペースX等の事業を手掛けているイーロン・マスク氏で、資産総額は2,190億ドル。

2位は、アマゾンの創業者であるジョフ・ベゾス氏で、資産総額は1,710億ドルです。

むろん、金持ちが悪いことだということではありません。

問題視されるべきは、世界的に貧富の格差を拡大させ、各国の中間所得層を破壊させてきたグローバリズムにあります。

貧困と不正を根絶するため支援活動を展開する団体であるオックスファムによれば、2020〜21年に増えた世界の資産のうち63%を上位1%の富裕層が保有し、1日当たり2.15ドル未満でクラス貧困層の割合は四半世紀ぶりに上昇しているとのことです。

このようにグローバリズムによってもたらされた格差や矛盾が限界点を超えてしまったがゆえに、ついに世界は地政学的な混乱期に突入してしまったと理解していい。

そのグローバリズムを支える悪魔の思想こそがネオリベラリズム(新自由主義)です。

未だにわが国の政治や社会が「ネオリベラリズム」に支配されていることは、まことに悲劇です。

きのう財務省が2023年度予算案をもとに歳出入の見通しを示す「後年度影響試算」を公表したのですが、それを日本経済新聞社が次のように報じています。

『膨らむ利払い、狭まる政策余地 国債費26年度4.5兆円増

(中略)日銀による金融緩和の修正などを織り込み、26年度の想定金利を1.6%と前回試算から引き上げた。国債利払い費が膨らみ、政策にお金を振り向ける余地が狭まる。限られた財源で経済活力を生む「賢い支出」が求められる。(後略)』

まず、川崎市の財政局でもそうですが、後年度負担をチラつかせ歳出削減の必要性を喧伝するのは財政当局の常套手段です。

それを専門紙ぶった新聞社が「限られた財源」だの、「賢い支出が求められる」だのと言って世論を籠絡しようとしているわけです。

何度でも言いますが、自国通貨建てで国債を発行している日本政府が国債利払費で困窮することもあり得ないし、それを理由に財政支出が制約されることなどもあり得ません。

恐ろしい事実ですが、財務省も日本経済新聞も、その他多くの政治家たちが「貨幣供給には限界がある…」という誤った知識に汚染されています。

あるいは「知識の腐敗」と言ってもいい。

貨幣供給(財源)に限界があると誤解しているがゆえに、彼ら彼女らは健全財政(行政の黒字化)を正当化しようとします。

しかしながら現実は全くの逆で、政府の貨幣供給(財源)は無限です。

そして貨幣供給が無限であることを理解した識者たちは、財政政策により需給バランスを調整する機能的財政の必要性を説きます。

なぜなら、貨幣供給は無限であるものの、供給能力(物材やサービスをつくる力)は有限だからです。

いま私たちに襲いかかっているインフレも供給制約によって起きているわけで、財政支出の拡大で起きているわけではありません。

緊縮派(ネオリベラリズム派)は、貨幣供給が有限だから財政支出の拡大がインフレをもたらすと誤解しています。

現在の日本は、供給制約で起きるコストプッシュ・インフレと、需要不足(供給過剰)で起きるデフレが共存していますが、コストプッシュ・インフレもデフレも、ともに供給制約を緩和するための産業政策が求められます。

そして供給制約を緩和する産業政策とともに、インフレを抑制するための各種の財政支援が求められます。

要するに、結局は財政支出の拡大が必要なわけですが、前述の理由により国債発行による財源確保が政治的に阻止されています。

このままでは、国内での貧富格差が益々もって広がっていくばかりです。

スタンフォード大学のウォルター・シャイデル教授は、歴史的にみて格差拡大の是正に何より大きな役割を果たしてきたのは「暴力的な衝撃」であると指摘し、なかでも戦争、革命、国家の崩壊、疫病を「平等化の4騎士」と呼んでいます。

むろん、どれも起きてほしくない事態です。

どこかに知識の腐敗につける薬はないものか…