先行きのみえないウクライナ戦争ですが、きのうプーチン大統領はショイグ国防相にロシア正教のクリスマスに合わせ「一時的な停戦」を命じました。
停戦時間は現地の6日正午から8日午前0時までの36時間とのことで、ロシア政府はウクライナ政府にも同調を呼びかけたものの、ゼレンスキー大統領は「(ロシアが戦闘を有利に運ぶため)クリスマスを一時的な隠れみのとして利用しようとしている」として拒絶しています。
ゼレンスキー大統領としては、あくまでもロシア軍が2月24日以前の位置まで撤退することが停戦に応じる最低条件と考えているようです。
さて、昨年2月24日にロシアがウクライナを侵攻した段階で、この戦争がここまで長期化すると考えた日本人はほとんどいなかったのではないでしょうか。
なにしろわが国は有史以来の「災害死史観」の国ですから、地震であれ、津波であれ、いっときだけ瞬間的に何とか耐え凌げば直ちに復旧復興がはじまるものと考えがちで、戦争も同じように短期間で終わって直ぐに復旧復興がはじまるのではと考えがちです。
確かに短期間で終わる戦争もあります。
少なくとも、この2世紀のあいだ、多くの戦争は平均3〜4か月で終結しています。
基本的には、戦争による犠牲やコストが具体化してくると、当事国それぞれがともに和平を模索するようになるからです。
むろん長期化する場合もあります。
その理由は例えば、双方いずれかの指導者が「敗北によって自身の生存や政治生命が脅かされる…」と考えている場合、あるいは敵対勢力が将来さらに強靭になると双方の指導者が警戒している場合などです。
現在のウクライナ戦争は、どちらかというと前者の力学がはたらき戦争を激化させているように思えます。
加えて、ウクライナを支援している欧米も、これからエネルギー資源を必要とする厳しい冬を乗り切らねばなりません。
また武器支援を含めて、ウクライナへの支援コストと自分たちの生活コストを計りにかけざるを得ない事態になる可能性も高まります。
なんとか善戦しているウクライナ軍も、欧米の支援が細くなればなるほどに相対的な戦力が低下しますので、そのことがまた戦争を長期化させる一因になるでしょう。
しかも報道をみるかぎり、現在のウクライナ世論は、ロシアとの妥協を支持するような状況にはなさそうです。
少なくとも今のところ、ロシアが2月24日以前の位置まで撤退することを支持しているロシア政府の高官はいないようです。
それにつけても戦争もしくは国際政治とは実に皮肉なもので、理想主義を求めるユートピアリストのほうが戦争を望み、現実路線を求めるリアリストのほうが平和を求めることがしばしばです。
ユートピアリストたちは、「民主主義」や「自由貿易」などの価値を普及すれば国際社会は必ず平和になると言うけれど、イラク戦争やアフガニスタン紛争がそうであったように大抵の場合、結果は裏目に出ています。
米国は「ウクライナをNATOに引き入れ、西側自由主義陣営に組み込めば必ずや国際平和に寄与する」と考えたのでしょうが、残念ながらそれは単なるユートピアリズムでしかありませんでした。
その戦略が結果として、いたずらにロシアのナショナリズムを刺激し、昨年の2月24日の侵攻につながったのです。
因みに、ロシアに先んじて国境線に大軍を配備したのはウクライナ側でした。
侵攻以前、プーチン大統領は「NATOを東方に拡大せず、ウクライナを緩衝地帯にしてくれれば侵攻の用意はない…」と盛んに国際社会に訴えていたわけですから、本来この戦争は止められていたはずです。
かつて『X論文』を著したことで名高いジョージ・ケナンは、リアリストとしてNATOの東方拡大には反対をしていました。
むろん、ロシアに不要な刺激を与えるからです。
リアリストは普遍的な価値など信じず、国際社会は経済力と軍事力と政治力のバランスで成り立っている現実を直視し、戦争という最悪の政治手段が行使されないように行動するものです。
まずは、米国がNATOの将来についてロシアと話し合うことに合意すること、そしてプーチン大統領が懸念しているように、ウクライナを反ロシア計画の一環として利用することがないことを欧米が保証することが、当該戦争を終戦に導く最低条件になるのではないでしょうか。