わが国は穏やかなお正月を迎えておりますが、ウクライナとロシアの戦闘は新年も続いています。
一昨日の1月2日、ロシア国防省は「ドネツク州(ウクライナ東部)にあるロシア軍の臨時拠点が攻撃を受け、ロシア兵ら63人が死亡した…」と発表しました。
昨年2月の侵攻開始以来、一度の攻撃でのロシア兵の被害としては最大規模ではないかとの見方もあります。
今この瞬間もなお、ロシア軍は同州バフムトへの攻撃を強めているようです。
ロシア、ウクライナ、米国、いずれの国も掲げている政治目標を達成できずして、血塗られた膠着状態は続いています。
因みに「ロシア(プーチン大統領)はウクライナを大ロシアの一部にするために侵攻している…」というのが、西側メディアの報道に籠絡されている人たちの一般認識なのでしょうが、私はそのような認識をもっていません。
戦争突入前の昨年1月、ロシアのラブロフ外相は「NATOが東方へ拡大しないという保証がすべての鍵だ…」と記者会見で述べているとおり、プーチン大統領をはじめロシアの指導者たちは「ウクライナのNATO加盟は、ロシアの安全保障に対する直接的な脅威」だと考えていました。
地政学的にみれば、現にそうでしょう。
ロシアとしては、そのリスクを排除するには戦争という手段により「ウクライナを中立国か破綻国にするしかない…」と判断したものと推察します。
ゆえに、むしろロシア(プーチン大統領)を追い詰めたのは米国の側だと思います。
当初、プーチン大統領は戦争(特別軍事作戦)を早期に終結できると考えていたようですが、ジャベリン(対戦車ミサイル)やハイマース(多連装ロケットシステム)などの強力な兵器を欧米から供与されたウクライナ軍はプーチン大統領の予想を超えて手強かった。
なかなか戦略目標を達成できないロシアですが、といって負けるわけにもいかないので今や出口を見失いつつあります。
よって今後は、負けない為にあらゆる戦術的手段を講じてくることでしょう。
ロシア軍は昨年9月からウクライナの電力インフラへの攻撃を行っていますが、それもその一つだと思います。
シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は「長期化する戦争には破壊的なエスカレーションのメカニズムが埋め込まれている」と指摘しており、戦争行為に内在するエスカレーションには基本的に次の3つのルートがあるとしています。
1.一方または双方が勝つために意図的に戦闘をエスカレートさせるケース
2.一方または双方が負けないために意図的に戦闘をエスカレートさせるケース
3.意図的な選択でなく、戦闘が偶発的にエスカレートしてしまうケース
いずれのケースにしても最悪の事態は、米国が直接的に軍事介入せざるを得なくなってしまうことと、ロシアが核の使用を決意することでしょう。
まず、米国が戦闘に関与していくシナリオは様々に考えられますが、このまま戦争が長引いて1年以上続いたとしましょう。
そのとき、もしかすると先にしびれを切らすのは米国の方かもしれません。
例えば、ウクライナ支援の経済コストが国内や欧州で政治問題化してくる可能性もありますし、ウクライナ紛争によって手薄になっている「中国封じ込め」にも再び専念しなければなりません。
焦りはじめた米国は、ウクライナがロシアに勝てるように、あるいは負けないように、よりリスクの高い対策を講じようとするかもしれず、より高いリスクを米国が検討すれば、負けられないロシアもまた、より高いリスクを選択しかねません。
あるいは、バルト海上空には米国・NATO・ロシアの戦闘機が飛行しているはずですので、それらが偶発的にニアミスを起こし、結果として戦闘状態に発展してしまう可能性が全く無いとも言い切れません。
昨年2月24日に侵攻した際、プーチン大統領は「米国と同盟国が参戦してくれば、核を使用するかもしれない」と強く警告しています。
その考えは今もなお変わっていないと思います。
また、戦争が長期的な膠着状態に陥り、外交的な解決策も模索できなくなれば、ロシアとしてもやがては戦争コストに耐えきれない時期が訪れます。
その時期が近づけば近づくほどに、プーチン大統領の核の使用を決断するハードルは徐々に低くなってくるのではないでしょうか。
むろん、先行きについて楽観的な見通しがないわけでもありませんが、紛争当事者にエスカレーションリスクを管理する能力があるかどうかは別の話です。