政府が国債を発行する理由

政府が国債を発行する理由

政府が国債を発行するにあたり、なぜ中央銀行の日銀当座預金を通じて民間銀行に引き受けさせるのか?

その問に即答できる国会議員は、一部の議員さんを除いてほとんどおられないでしょう。

なにせ多くの不理解者たちは、政府の国債発行は国民の金融資産を原資にしていると思い込んでいるぐらいですから。

国民の金融資産を原資にしているという誤解から、「国債発行は未来へのツケ…」などと実にお〇〇さんなことを言うわけです。

さて、「国債発行の際、なぜ中央銀行の日銀当座預金を通じて民間銀行に引き受けさせるのか?」については、なによりも「中央銀行の役割とは何か…」を知ることで直ぐに答えは見つかります。

では、中央銀行の役割とは何か?

もったいぶらずに結論から言いますと、中央銀行(日本銀行)は…

①政府の銀行

②銀行の銀行

③お札を独占的に発券する銀行

…の役割を担っています。

とりわけ、ここでは①②について解説しますが、私たち個人や家計、あるいは企業にとって「銀行」は必要な存在であるように、実は政府や銀行にも「銀行」が必要です。

具体的な事例で解説します。

コロナ禍の2020年、政府は一人10万円の定額給付金を全国民に給付しましたが、そのとき政府は10万円の現金を各家庭に送りつけたわけではありません。

それぞれの個人や家計がもつ「銀行口座」に定額給付金が振り込まれたはずです。

例えば、Aさんという国民が、日の丸銀行という民間銀行に口座をもっていたとしましょう。

定額給付金(10万円)を政府から給付されたAさんの銀行通帳には、「¥100,000−」と記帳されます。

銀行預金というものは、Aさんにとっては「資産」なのですが、実は日の丸銀行にとっては「負債」として計上されます。

いつも言うように、誰かの負債は必ず誰かの資産です。

政府がAさんに10万円を給付したことで、10万円分の負債が増えてしまったのでは日の丸銀行も経営上、割に合いません。

そこで政府は、政府が日銀に設けている日銀当座預金(政府預け金)から、日の丸銀行が日銀に設けている日銀当座預金に10万円を支払います。(実際には日銀がキーボードで数字を打ち込むだけ)

日銀当座預金は日の丸銀行にとって「資産」ですので、政府が日の丸銀行に支払った日銀当座預金10万円と、Aさんの預金10万円(日の丸銀行にとっては負債)により、日の丸銀行の資産(10万円)と負債(10万円)がバランスすることになります。

要するに中央銀行は、政府の預金口座を管理し、税金や年金の受け払い、各種の手当てや給付金の支給に関する事務などを取り扱い、民間銀行に対しても日銀当座預金を預かったり貸出を行ったり、あるいは民間銀行同士の様々な金融取引決済なども担っています。

だからこそ日本銀行は「政府の銀行」「銀行の銀行」と呼ばれるわけです。

もうお解りですね。

前述のとおり、政府がおカネを使うと結果として民間部門の預金が増え、と同時に民間銀行の日銀当座預金も増えることになります。

ここでは、日銀当座預金残高の増減が金利に影響を与えることを理解しなければなりません。

個人、家計、企業が民間銀行からおカネを借りる際の金利水準は、民間銀行が日銀に設けている日銀当座預金の残高に影響されるもので、残高が増えると金利に低下圧力がかかり、減ると金利に上昇圧力がかかります。

では、もしも政府が国債を発行せずに財政支出を拡大し続けるとどうなるでしょうか。

日銀当座預金残高が膨れ上がって金利は低下、やがてインフレ率は限度を超えて上昇、投機にむかった余剰資金も膨れ上がって金融バブルが崩壊をもたらすことになるでしょう。

だからこそ政府は、民間銀行の日銀当座預金に超過が生じないよう、国債を発行することで予めそれを減らしおくわけです。

要するに、なぜ政府が日銀当座預金を通じて国債を発行するのかと言えば、それは金利を調整するためなのでございます。

国債は財源確保のためには必要ないのですが、金利を調節するために必要なのです。

現在の日本経済はデフレの中にありますが、仮にデフレが払拭され、景気が加熱しすぎたとしましょう。

中央銀行(日本銀行)は、それまで買い込んできた国債を、こんどは民間銀行に売却することによって「日銀当座預金残高」を減らし、金利を上昇させようとします。

ここでもやはり、日銀当座預金残高(金利)の調整弁として中央銀行が重要な役割を果たすのでございます。

もしも中央銀行が存在しなければ、政府ができる景気引き締め策は「増税」ぐらいしかありません。