防衛省によれば、きのう午前11時ごろ、北朝鮮から弾道ミサイル2発が発射され、いずれも日本のEEZ(排他的経済水域)の外側の日本海に落下したとのことです。
既に日本国民の多くがミサイルの脅威に鈍感になっている節が在りますが、今や北朝鮮は核兵器により日本は言うに及ばず米本土さえ脅かす力をもっています。
むろん、脅かされているのは日本や米国の安全保障だけではありません。
北朝鮮のWMD(大量破壊兵器)開発は、北東アジアでの軍拡競争を引き起こす可能性があります。
いつも言うように、ナポレオン戦争以降、第二次世界大戦が終わるまでの約150年間はクラウゼヴィッツのいう「絶対的戦争」の時代であり、そこでは多く敵国の首都まで進軍し、敵国土を我が物にするか、賠償をとり二度と刃向かわないと約束させる方法で戦争を終結させていました。
それを「国家間決戦」というのですが第二次世界大戦終結以降、その国家間決戦は世界から消え失せました。
その消滅は「核兵器」と「超大国」の出現によってもたらされました。
核兵器を二国以上が持つと、そのうち二国同士は共倒れになるために国家間決戦はできなくなり、また、核兵器を持たない国同士が国家間決戦をすることはあり得るのですが、これらの国々に影響力をもつ超大国がそれに干渉するためそれもできなくなります。
朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争などがありましたが、それらは米ソという二大超大国のコントロール下の局地戦、代理戦、制限戦であり、いずれも世界大戦へとは発展せず、核兵器が使用されることもありませんでした。
少なくとも超大国は、核そのものの脅威以上に、その拡散の脅威を重視することを理解したわけです。
ところが、北朝鮮が突きつける核の脅威ゆえに、これまであり得ないと考えられていた核戦力の保有を求める民衆の声が広まりつつあります。
例えば、韓国。
もしも韓国が核武装を決断すれば、中国は核の兵器庫をさらに増強するでしょうし、そうなれば我が国においても「核開発を試みよ…」という世論が高まるかもしれません。
繰り返しますが、核の拡散こそが脅威です。
ところが、集団安保のリーダー国である米国は、こうした展開への政策対応を明確にしていません。
さらなる危機が制御不能な状態に陥らないように、バイデン政権はより積極的なコミットメントを心がけるべきでしょう。
北朝鮮は大量破壊兵器の備蓄を強化しているらしく、その一方で先制攻撃も辞さないという威嚇を続けています。
去る9月9日、金正恩総書記の決定を追認する機関である最高人民会議(北朝鮮の国会)で、先制核攻撃を実施する五つの条件が発表されています。
五つの条件とは、①北朝鮮への核攻撃が差し迫っている場合だけでなく、②指導層及び③核戦力司令部が通常攻撃を受けた場合、④国の重要資産が軍事攻撃を受けた場合、⑤通常戦争の拡大を防ぐには核使用しかないと政権が判断した場合等々です。
さらに金総書記は、核保有国としての北朝鮮の地位を明記する法案を提出し「非核化に関する協議には二度と応じない」としていることから、おそらく彼は、危機の際にソウルを支援することのコストとリスクを高め「米韓同盟を揺るがしたい…」と考えているのでしょう。
要するに北朝鮮による韓国への攻撃に対し「もしも反撃すれば、アジアの米軍基地、あるいは米本土を攻撃するぞ!」と言っています。
金総書記は、ウクライナ戦争で「核による威嚇」を続けるプーチン大統領に勇気づけられているのかもしれません。
たしかに米国はウクライナへの軍事支援を強化していますが、それでもバイデン政権はどのような兵器を供給するかをめぐっては「明確な境界」を設けています。
ロシアを攻撃できるような長距離の兵器をウクライナに提供していませんし、現地に米軍部隊はもとより、軍事顧問さえ派遣していません。
むろん、ロシアが世界最大の核保有国であるがゆえにです。
北朝鮮がミサイル発射を繰り返すのは、まるで核の効用に酔いしれ恍惚状態となっているかのようです。