ウクライナ戦争をみて、やはり今なお「核抑止」の力は顕在であることを認識させられます。
米国をはじめ西側がウクライナに対して思い切った軍事援助ができないのは、どうみてもロシアの核を恐れてのことでしょうし、攻めあぐねているロシアにしても、なかなか核の使用に踏み切れないのは様々な面で取り返しがつかなくなることを恐れてのことだと思います。
つまり相互核抑止が機能しているということです。
一方、米国の情報機関によれば、核抑止の有効性を最大限に活かそうとする中国は、保有核弾頭を2030年までに1000発まで、即ち米露の3分の2ぐらいの規模にまで拡大しようとしているらしい。
むろん、台湾侵攻の際にも、その力を最大限に活かそうとするでしょう。
ウクライナ戦争のもう一つの教訓は、今なお近代国家は膨大な犠牲を払いつつ戦争を遂行するという事実です。
ロシアとウクライナ双方に戦死者(犠牲者とは別)が出ていますが、未だ戦争状態は継続しています。
豊かな時代になればなるほど、いずれの国家も国民の尊い命を奪う恐れのある「戦争」という外交手段を選択することはないだろうと思われていましたが、未だウクライナ戦争は終結の目処が立っていません。
例えば、中国が台湾に着上陸侵攻した場合、台湾のみならず中国側にも多くの死者がでるはずです。
ゆえに「そう簡単に中国は台湾を侵攻しないだろう…」という見立てもありましたが、ウクライナ戦争をみているとそうでもなさそうです。
つまり台湾侵攻の際、中国は核使用の脅しによって米国の参戦を妨げようとする一方、中台双方が多大な犠牲を厭わないという姿勢で衝突することが十分に考えられるということです。
やはり中国による台湾侵攻は、現実のリスクとして強く認識されねばならないと思います。
もしも台湾有事に至った場合、わが国は米国とともに行動することになると思われますが、その頼りの米国様が「台湾をめぐる戦争で敗北する…」と言われています。
例えば、台湾危機を想定した場合、太平洋に点在する米軍基地のさらなる強化が必要なのですが、その強化は遅れに遅れ手薄のままなようです。
米国連邦議会は、空軍・海軍基地があるグアム(台湾紛争の最前線)に必要な防空・ミサイル防衛システムの予算さえ計上していないらしい。
なお、この地域にある各基地の精密誘導兵器の備蓄も長期の紛争を支えるには十分な規模ではないという。
トランプ前大統領時代に示された海軍近代化計画『バトルフォース2045』(2045年までに500隻以上の有人および無人の艦船で構成される海軍艦隊を構築する計画)は、バイデン大統領の下では棚上げされ、海軍は355隻の艦隊を維持するという長年の目標から大幅な後退を余儀なくされています。
来年度の国防予算も削減されて、艦隊規模はさらに縮小される見込みです。
日本政府が「防衛費を増やさなければ…」と考えるのも宜なるかなです。
いま日本では防衛費増額分の財源をめぐって永田町界隈は揉めに揉めていますが、米国が西太平洋での軍事プレゼンスを縮小しているのは財源論というより、覇権国としての意志やマインドが逓減しているからです。
これはこれで実に厄介な問題です。