商品貨幣論に毒され続ける日本の政治

商品貨幣論に毒され続ける日本の政治

防衛費増額分の財源をめぐって、政府・自民党が迷走しています。

きのう岸田首相は自民党役員会で懸案となっている防衛費の財源について言及されました。

「防衛力の抜本強化は安全保障政策の大転換で、時代を画するものだ。責任ある財源を考えるべきで、今を生きる国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべきものだ」

首相の言う「今を生きる国民の背負うべき責任」とは、要するに増額分の一部を増税で賄うべきだということです。

一方、増税財源に異を唱えている高市経済安保相は閣議後記者会見で、岸田首相の増税方針に対して自身のツイッターなどで反論したことについて「閣議決定をしたものに反したわけではない。まだ、自由に議論できる段階だ」と述べつつ、「閣僚の任命権は総理なので、罷免されるのであればそれはそれで仕方ないという思いで申し上げた」とも述べており、罷免も覚悟のうえで自身の考えを撤回する気はないとしています。

それにつけても滑稽なのは、自民党内において「復興財源を防衛費に充てるべきか否か…」という議論まで為されていることです。

典型的な貨幣のプール論ですね。

おカネとは「どこかに溜まっている塊」とでも思っているのでしょう。

これ即ち「物々交換における取引が貨幣の起源だ…」とする商品貨幣論という考え方です。

商品貨幣論によれば、貨幣の起源は物々交換であるがゆえに、おカネそのものにも貴金属などの何らかの内在的価値の裏付けが必要だとされます。

確かに中世ヨーロッパの絶対王政時代には金貨や銀貨が貨幣として使われており、王様が戦争する際には、その戦費を人民から税として徴収している事例がありました。

「おカネは金貨や銀貨である…」を前提にすると、金銀の保有量がその国の軍事力を決定するという考え方になります。

大航海時代のスペインなどはその典型で、純輸出を拡大することを通じ金や銀の保有量を増やすことに必死でした。

これが、いわゆる重商主義です。

ところがその後、「商品貨幣論」という当時の常識を覆す国が現れます。

イギリスです。

ご承知のとおり、英仏百年戦争を最終的に勝利したのはイギリスです。

当時のイギリスの金銀保有量は圧倒的にフランスよりも少なかったのですが、それでもフランスとの戦争に勝利したのです。

なぜでしょう?

そこには、貨幣とは何か、という真理が隠れています。

実は、貨幣は物々交換や市場における取引を起源としておらず、貨幣は「信用と負債の関係」を起源としていたことを、結果としてイギリスが証明したのでございます。

因みに、貨幣の起源を研究している歴史学者や人類学者たちは、今日に至るまで誰も「物々交換から貨幣が生まれた」という証拠資料を発見することができていません。

なんとイギリスは、イングランド銀行を設立し、貴金属など内在的価値の裏付けのない貨幣を発行させ、それを財源にフランスとの戦争を戦って勝利したのです。

貨幣は信用と負債の関係を起源としていなかったので、イギリス政府の貨幣発行に金銀等の保有量など一切関係なかったわけです。

現代でもそうですが、例えばある企業がA銀行からおカネを借りるとき、A銀行はどこかから金や銀はもちろん現金(日銀券)を調達して企業に貸し付けているわけではありません。

たんにA銀行は、企業がもつ銀行通帳に〇〇円と記帳しているだけです。

そのとき、そのおカネ(銀行預金)はA銀行にとって負債となります。

意外かもしれませんが、銀行は負債を発生させ、それを貸し付けているのです。

つまり貨幣を創造するということは、負債を発生させるということになります。

私たちが手にしている現金(日銀券)も、むろん日本銀行の負債です。

もしも「政府の負債はけしからん…」と思うのであれば、その場で燃やしてしまったほうがいい。

その瞬間に日銀の負債は減ります。

むろん、日銀券を燃やすと犯罪になりますので、本当にやられては困りますが。

要するに、負債という貨幣をつかって経済活動は成立しているのでございます。

では、政府の負債(貨幣)発行に上限はあるのでしょうか。

むろん、あります。

それは、国民や企業のモノやサービスを生産する力、即ち供給能力です。

現在のインフレ率をみるかぎり、まだまだ我が国の供給能力には余力が在ります。

ゆえに防衛費の増額分は、ふつうに国債(負債)を発行してその財源にすればいいだけの話です。

なのに岸田首相をはじめ増税派たちは、まるで中世ヨーロッパの王様のように、どこかから金や銀を調達せねば、という発想に陥っているわけです。

そして何度でも言いますが、国債発行は将来世代へのツケにはなりません。

変動為替相場制を採用し、自国通貨建てで国債を発行できる政府に財政破綻の可能性はゼロ%であり、そもそも国債は返済不必要な負債なのでございます。