我が国のエネルギー安全保障の脆弱性は明らかです。
なにせ加工していない段階の「1次エネルギー」の8割ほどを化石燃料が占めており、そのほぼ全量を輸入に頼っています。
これらの供給が何らかの理由で途絶したり、輸入価格が急激に跳ね上がったりすれば、むろん大きな影響を受けることになります。
さて、エネルギー安全保障は、実は食料安全保障にも直結していることをご存知でしょうか。
例えば、きのう食した鶏肉は養鶏場で配合飼料(コーン)を与えられ育てられた鶏のお肉です。
つまり私は、鶏肉を食べているつもりだったのですが、考えてみれば実はコーンも食べていたわけです。
さらにはコーンを大量生産する過程において、化学肥料はもちろん、石油で稼働するトラクターが使用されています。
このとき、化学肥料を生産するため膨大な化石燃料が消費されており、石油という化石燃料も使われているわけです。
加えて、生産された農産物が私たちの手元に届くまで、加工、運送、小売り等の事業で使われる電気もまた、化石燃料(主として液化天然ガス)を燃やすことで発電されています。
何が言いたいかといえば、私たちは鶏肉を食べているのと同時に、実は大量の化石燃料をも食べているのです。
こうしたエネルギー効率の高い化石燃料なしで、私たちは現在の生活水準を維持し獲得することはできません。
ゆえに化石燃料が日本に入らなくなれば、私たち日本国民は着実に飢えることになるのでございます。
ご承知のとおり、地球上の土地は、窒素、リン、カリウムといった成分が無ければ農産物を生産することができません。
農業生産によって土地から奪い取った成分を戻さなければ農産物は生産できなくなってしまいます。
化学肥料の生産にしても、膨大な化石燃料を消費するのは周知のとおりです。
そこで、リンの産出国をみてみますと、その40%は中国が占め、次いでモロッコが17%、米国が11%、ロシアが6%といった具合です。
今、その中国がリンの輸出を制限しており、ウクライナ戦争以降、ロシアからも輸入できない状況が続いています。
カリウムについても生産量の多くをロシア、中国、ベラルーシが占めているのですが、こうした事情を背景に、いま日本の農家は化学肥料を入手できない状況に追い込まれています。
因みに、京都大学の農学博士であられる篠原信先生の試算によれば、もしも日本への石油輸入が何らかの理由により全て止まってしまったなら、国内で養える人口は3000万人を切るであろうとのことです。
我が国の食料自給率がカロリーベースで38%…と言っても、それは化学肥料、配合飼料、化石燃料が安定的に輸入されることが前提なのです。