グローバル・リセッション

グローバル・リセッション

国内需要の不足を輸出促進で補うことを目的に、ある国が自国通貨を相対的に弱く(安く)するように政策圧力をかけ、それを各国が競って行うことを「通貨戦争」などと呼びます。

当然のことながら、あらゆる国が同時に通貨安にできるわけではありませんので、特定国が他国の通貨価値を上昇させるような措置を採れば政策対応を迫られることになります。

リーマン・ショックというグローバル金融危機の後、世界経済は長期的停滞に陥り、各国が需要低迷に嘆いていたなか、各国の指導者は自国の経済を支えるために全般的に通貨安を望んでいました。

覇権国(米国)の中央銀行(FRB)が金融緩和を行うことで自国通貨が上昇することを警戒し、自国通貨が高くなることを望まない国々は外国為替市場に積極的に介入したわけです。

しかし今や、そのメカニズムは完全に逆転しています。

コストプッシュ・インフレに苦しむ米国では、FRBがハイペースでの利上げを行っていることから、我が国の通貨がそうであるように、各国は通貨安(ドルの独歩高)に苦しんでいます。

デフレが内在している日本では利上げは見送られていますが、各国の中央銀行が物価上昇を回避しようとFRBの高金利政策に同調する圧力に晒されており、まさに逆通貨戦争の様相を呈しています。

FRBの高金利政策が世界の資金を米国に引き寄せドル高をもたらし、その結果として他国の通貨価値が下落する。

ただしそれは、一般的には輸出競争力を強化し、その国の経済を助けることになるはずなのですが、通貨安は輸入品価格を押し上げることにもなります。

とりわけ、輸入エネルギーや食糧価格が世界的に高くなっているために、各国政府は自国の通貨安、とくに米ドルに対する通貨安を懸念し、国内金利を引き上げつつあるわけです。

なお、逆通貨戦争が激化することにより最も懸念されるのは、通貨安を回避しようとする国家間の競争により世界の金融政策が過度に引き締められることです。

ここで言う「インフレ」が、需要過多にともなうデマンドプル・インフレであるのなら、むろん問題はないのですが、米国等で現在進行形のインフレは供給制約にともなうコストプッシュ・インフレですので、不要な利上げは益々もって供給制約をもたらし、かえってインフレを加速化させることにつながります。

過度な引き締め政策は米国経済を一層減速させるでしょうし、ロシアの天然ガス供給が打ち切られたヨーロッパ経済は冬にはリセッションに陥ることが予測され、中国経済は不動産不況とゼロコロナ政策の複合的な影響により急失速しています。

こうしてみますと、世界経済を牽引する主要エンジンが減速しており、グローバル・リセッションの危機に直面していると言っても過言ではないと思います。

「円安は輸出産業を後押しする…」というものの、世界経済が低迷するのであれば円安の恩恵は限定的となります。

我が国は輸入依存度こそ低いものの、輸入財の過半数が食料・鉱物性燃料・工業用原料という必需品ですので、行き過ぎた円安の悪影響は計り知れません。

岸田内閣は経済対策を打ち出していますが、はたして真水29.1兆円の補正予算で足りるのかどうか…