スケープゴートにされる日銀

スケープゴートにされる日銀

きのうのニューヨーク外国為替市場では、円高が進みました。

最終的には、1ドル=146円35~45銭で取引を終えています。

円が買われた理由は「FRB(米国の中央銀行)が年内に金融引き締めを緩める!?」との観測が市場に流れたことから、日米金利差の縮小を見込む円買い・ドル売りが優勢となったようです。

金融市場は相変わらず投機筋の「思惑」や「見込み」で動いております。

さて、これまでFRBは前例にないスピード(通常の3倍)で利上げを行ってきましたが、それが与える経済の影響は計り知れない。

例えば、急速な利上げにより住宅ローン金利が上昇したために米国の新規住宅販売が減少しています。

自然、その影響で賃貸住宅の家賃は上昇、可処分所得を減らされた米国民の消費需要を収縮しています。

要するにFRBは、国民の所得や雇用を犠牲にしてでもインフレを抑制すると言って「利上げ」を行ってきたわけです。

そもそも今の米国経済に襲いかかっているインフレは、デマンドプル型インフレではなく、その大部分がコストプッシュ型インフレです。

コストプッシュ型インフレ下での「利上げ」など、なんの解決策にもなりません。

ならないどころか、企業の借り入れコストを引き上げてしまうことから、価格支配力のある独占企業が利益を確保しようとするため、かえって価格引き上げ圧力を強めてしまう結果に至ります。

供給制約の高まりがコストプッシュを引き起こしているわけですから、各企業は生産性を向上させるための設備投資や技術開発投資を行わなければならないわけですが、利上げはそうした企業の投資意欲さえ抑制させてしまいます。

米国政府は経済安全保障の観点から、製造業のサプライチェーンや研究開発拠点をできるだけ国内に回帰させようとしていますが、利上げやドル高は、その製造業の国内回帰を妨げることにもなります。

このように考えますと、いまFRBが行っている「利上げ」は百害あって一利なしの政策です。

むろん、その悪影響は米国経済にとどまらず、ドル建て純債務を多く抱えている新興国や発展途上国などでは通貨安を招き、やがては資本逃避が起こり、ついには債務不履行(デフォルト)に追い込まれることになりかねません。

我が国でも円安による輸入物価の高騰がコストプッシュ型インフレを悪化させているのは周知のとおりです。

因みに円安の問題を、金融緩和を続けている黒田日銀のせいにするのは筋違いです。

デフレ基調の日本経済で「利上げ」などを行ってしまえば、たちまちにしてデフレのどん底に叩き落されてしまいます。

悪いのは黒田日銀ではなく、コストプッシュ型インフレ、及びデフレ経済を同時解消するために必要な財政施策を講じようとしない財務省です。

財務省は外貨準備を取り崩して全く効果のない円売り(ドル買い)介入を行いましたが、その意図は、黒田日銀をスケープゴートにしようとするためにあったとさえ言われています。

「国民の皆さん、財務省は一生懸命に為替介入を行っていますが、その効果が上がらないのは日銀が金融緩和を継続しているからですよぅ〜」と。

私たちは騙されてはなりません。

悪いのは、暗に利上げを求め財政支出を拡大しない財務省であって、日銀ではありません。

むろん、もっとも罪なのは、これまでにないスピードで利上げしているFRBです。