ロシアが編入を宣言したウクライナ南部ヘルソン州での戦況は、ロシア軍にとって苦しい戦が続いているようです。
既に州西部から撤退をはじめているらしく、あるシンクタンクの分析によれば、それを隠すためにロシア軍はドニエプル川にあるカホフカ水力発電所のダムを爆破するかもしれないという。
これまでプーチン大統領は「編入した地域への攻撃はロシア領内への攻撃と見做し、核による反撃も辞さない」としてきましたが、はたしてどうか。
キャロライン号事件(1837年)以来の自衛3要件(①急迫性と違法性、②必要性、③相当性と均衡性)からすれば、それが例え自国領への攻撃だったとしても、通常兵器による攻撃に対して核で応じることは相当性と均等性の観点からも困難かと思われます。
それにつけても今回のウクライナ紛争は、ロシア、ウクライナ双方にとって何の利益にもならぬ結末を迎えそうな気がします。
ウクライナにとっても言われなき侵攻であったのと同時に、プーチン大統領にとってもまた止むに止まれず踏み切ったであろう「侵攻」だったと推察します。
そもそもウクライナがNATOに加盟しようとさえしなければ、プーチン大統領にはウクライナを侵攻する意思などなかったはずです。
にもかかわらず、米国はリベラルな国際秩序形成の名のもとに東欧諸国を次々とNATOに加盟させ、ウクライナまでをその枠組みに組み入れようとしていました。
かつて『X論文』においてソ連封じ込め戦略を説いたジョージ・ケナンでさえ、「NATOの東方拡大はポスト冷戦時代全体を通じて、米国の政策の最も致命的な過ちとなるであろう」と指摘し、「このような決定は、ロシアの世論の国粋主義的、反西側的、軍国主義的傾向を助長し、ロシアの民主主義の発展を逆行させ、東西冷戦の雰囲気を復活させてしまうだろう」と予言していました。
現に、そうなりました。
その点、要らぬ紛争を招いたのは、米国の浅はかな国際外交戦略にあったと言っていい。
さて、政府の『国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議』の第2回会合で配布された資料(防衛省)を拝見しておりましたら、以下のように書いてありました。
「ロシアのウクライナ侵攻の教訓として、力による一方的な現状変更は困難と思わせるには、相手の能力に着目した防衛力(備え)が必要」
ここで言う「相手の能力に着目した備え…」というのは脅威対抗防衛力整備のことです。
現在の防衛省内には、「脅威対抗防衛力で考えよう」という人が多いようです。
とはいえ、核兵器を持たない日本が、中・ロ・朝、3か国の複合脅威に同時に対応するのに、GDP2%の国防費ではとてもとても対応しきれないことは明白です。
となると、脅威対抗防衛力整備ではなく、基盤的防衛力整備を優先しつつ、米国をはじめとする友好各国がその時の共同防衛の約束をしてくれるのかどうかが問題になります。
リアリズムをもって防衛力を整備強化し、それを外交力の背景として最大限に活用してほしい。